運命と知恵8
まあ、過剰戦力だったと言っても過言でなかった。
魔獣相手に直接戦う魔獣殲滅部隊隊長はともかく。補佐官二名と祈祷師は人の捕縛に特化した身であり、軍部の長たる総司令官もただ王族だから総司令官になれた訳でなく、ちゃんと武力を鍛えている人だった。
仮に魔獣と魔術師達が全員で攻撃を仕掛けていたとしても、大聖女の頑丈な祈りの守りで攻撃がそもそも通らなかっただろう。
魔女は大聖女の腕の中にいただけだったが、誰かが怪我をした時に的確な回復処置を施せたに違いない。
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「クソっ! こんなの聞いてないぞ!」
と、捕縛された者の誰かが言った。
「もう少し、魔獣を操れていたら」
そう、憂鬱な声がする。
「……実務戦闘の経験が無ければ、幾ら力を持っていても無駄でしょう」
静かに、祈祷師は告げた。
「貴方達は何処からどう見ても素人の動きでした。仮にもう少し魔獣を上手く操れていたとしても、こちらには勝てません」
そもそも、『もう少し上手くできたら』なんて、戦闘の場に於いて最も不要あるいは無駄な考えだ。
軍人や騎士、兵士、監視員等はそうならないためにずっと訓練を行なっているのだから。
「あなた達、見たところ魔力の質は悪くない。……何故、こんな野盗のような真似を」
したのですか、なんて言葉を祈祷師言う前に、
「俺たち『魔人』なんかに居場所なんてないんだよ!」
と、捕縛した黒いローブの者の1人が叫んだ。
「こうでもしなきゃ俺たちは飯が食えないし、死ぬしか道がない」
同意なのか、他の者達は俯いて黙ったままだった。
「……魔人、ですか」
大聖女も呟く。
『魔人』は、人間が亜人種と別れた後に現れたもう一つの人類で、魔術適性の高い人の事を指す。
「あんた達みたいな『聖人』や『正しい人間』には分からないだろうな!」
そしてそれに応対するかのように、元々の人間と祈りの力を扱う十字教徒を『聖人』あるいは『正しい人間』として、定められた。
「魔術に適性があるってだけで魔物だとか悪魔だとか、好き勝手言いやがって!」
そう憤慨する者達を、魔女達は静かに見ていた。
亜人種の差別がそれなりに収束した頃、次の標的になったのがその『魔人』だった。
実際、人類が亜人種や魔人、聖人と別れたのちに色々な犯罪が起こった。そして、その犯罪の犯行者のほとんどが魔人だったという。
魔人は聖人や亜人種などの普通の人間と比べて悪意が強い傾向にあった。
「だが、実際に罪を犯したのは君達の方だろう」
と、殲滅部隊隊長が言えば
「そ、それは! でもっ、俺たちは命令されたからやっただけだ!」
そう、必死に返される。
「……『命令されたからやった』とは言っても、君達が王命を邪魔している事実は変わらないのではないかな」
理由がどうであれ、この国に居る限りは王命が絶対だ。この国の者ならば、その事実を知らないはずがない。
「まさか、『王命だと知らなかった』とは言わないだろうね」
殲滅部隊隊長の言葉に、捕えられた魔人達は言葉を詰まらせる。
「俺たちの居場所はもう、あの場所にしかない。だから王命だったとしても、俺たちは自分の居場所のためにやるしかないんだ!」
悲痛な叫びに、魔女と大聖女は表情を曇らせた。
いくら人種自体に罪はなくとも、他の同種が残した結果は偏見を生んでしまったのだ。
確か、魔人の入国を拒絶あるいは禁止する国もあるのだったか。
「『自分のために』か。……それで」
魔獣殲滅部隊隊長は魔人達を見下ろす。
「王命を邪魔するよう命令を下したのは『暁の君』だとして。君達は雇われの傭兵かな? それとも、何処かに所属している?」
そう、問うた時。魔人の1人が口を開いた。




