運命と知恵6
魔女達が公爵領主に入ってから四半刻ほど歩いた。不思議と疲れる事も魔獣に襲われる事もなく、目的の村が近くなってゆく。そのうちに、目前に鬱蒼とした森が現れた。
「……あれ?」
初めに疑問の声を上げたのは魔女だ。首を傾げ
「こんなところに森ってあった?」
と周囲に問う。だが、土地勘のある者は居ないだろうから、ほとんど意味のない問いであった。
「さぁ? 昔、私がこの辺りの土地に行った時は長閑な牧草地だったような気がしますが……」
魔女と並んで歩いていた大聖女はそう答える。
「そうですね。周囲に木の生い茂る場所や森はありましたが、視界を塞ぐほどではなかったかと」
続けて、そのやや後ろを付いていた祈祷師が答える。
彼らの言う『以前』とは、世界が変わる前の話だ。巡礼として、聖職者は数日かけて国中を歩き祈りを捧げていた時のことを、思い出しているらしい。
「……巨大樹木が観測されてすぐの地図では、この場所は確か、更地でしたが」
と、魔獣殲滅部隊隊長は呟く。『魔女』の報告によると『種』の着地地点から外に向け、木々は放射状に薙ぎ倒されていたという。その上、中心地に近付くほど土地は剥がれ隠れていた下の地面を剥き出しにしていたらしい。
魔女達の居るこの地点も、土が剥き出しになるその範囲に入っていたらしい。
「それにしては、随分と太く育った木が生えてますが……」
補佐官2は少々険しい表情で言い、
「……そうですね。明らかにたったの二、三年で育つ太さではないですよ」
と補佐官1は頷く。魔女と共に植物を見ていた補佐官の2人はその不自然さに忌避感を覚えた。
「つまり、圧倒的に不自然な森という事だろうか」
と、総司令官は魔女に問う。
「多分、そうかも?」
森があったか聞いただけだったが、思わぬ方向に話が進み魔女はやや戸惑っていた。
だが、『不自然な森』という感想は魔女も同意だ。
「(……だって、植生が違う植物とか生えてるし)」
見える木々に対して魔女は思う。誰かがてきとうに植えたような印象を抱いた。
だが、枯れるほど場違いではないし恐らくここまで育っているなら、もう適応している。
×
「……やはり、森になっているね」
顎に手を当て総司令官は言う。実際のところ、報告を受けているので大きな驚きはない。
以前は村があった、更地だったはずのその周囲は深い森になっていた。
深い森の木々からやや視線を上に向けると、巨大な樹木が見える。巨大な樹木は王都や関門から見えた時同様に、桃色の葉を枝いっぱいに茂らせ悠然とそこに在った。
森に足を踏み入れると、たちまち冷えてじっとりとした空気に包まれる。腐葉土のような特有のにおいもあり、昔からそこに在ったかのような雰囲気を醸し出していた。
「わー、すごーい」
と、魔女は声を控えめにあげる。植物に囲まれた嬉しさからか、と思われたが
「植生がめちゃくちゃだー。寒いところの子と暑いところの子が一緒に居るー」
と、ややずれた感想だった。
それから探索を始めた最中、魔獣が現れる。




