運命と知恵5
熊公爵は、大雑把に言えば冬官を輩出しやすい血筋だ。
古き貴族と同様に魔獣の血が流れており、力持ちで体力のある者がよく生まれる。そして、生まれる者はほとんど皆が手先が器用で様々な道具を作っていた。
そして、落ちた星や巨大樹木の発生により悲惨な事になった村も、同様に農畜産と共にちょっとした木工細工や石細工を作るような、普通の場所だったという。
×
しばらくして、選ばれた七名を乗せた2台の馬車は熊公爵領の関門で足を止める。
「さて。ここからは自分達の足で目的地まで歩くよ」
全員が降りた事を確認し、総司令官は声をかけた。
公爵領主には既に話を通してあるのか、関門の私兵達は門を通れるように準備をしてくれている。元々は私兵の他に軍人も配置していたのだが、現在軍人は国内の復興や整備などに人員を割いていた。なので、領主の私兵達に色々と仕事を任せているのだ。
「樹木の側にまで馬車で行けば良いのに、と思うかもしれないが今はそれができなくてね。……今の公爵領地を見れば意味が分かるかもしれない」
総司令官は申し訳なさそうに告げる。
だが、選ばれた七名の内半分以上は軍事なので元から体力はあった。その上、大聖女と祈祷師もそれなりに身体を鍛えているらしく『歩く事に問題はない』と言う。
そして。
関門を通った先の景色は、荒れ放題の土地だった。
×
地面はひび割れ、四方へ深い亀裂を伸ばしている。割れた地面は数多もの段差を生んでおり、明らかに馬車で通るには向いていない状態だ。
そして、遠くに薄らと桃色の葉を茂らせた巨大な樹木が見えた。
「樹木が生えてから、もう数年は過ぎている筈ですよ?」
驚きからか口を押さえ、大聖女は疑問を総司令官に投げかける。ほとんどの土地は瓦礫の撤去や建設物の修繕は粗方終了しているというのに、土地の整備がほとんどされておらず、荒れ放題だった。
いや、瓦礫や色々は片付けられている。だが、修繕が済んでいないのだ。
かなり時間が経っているのか、そこらじゅうに雑草が生えている。
「……なんというか、公爵領の者は心優しいという話はしたと思うが」
困った様子で総司令官は大聖女を向いた。
「言っただろう、冬官を多く輩出すると。自分達の土地を後回しにして、他領地の整備を優先しているらしくて、手が足りていないんだ」
そうは言っても遅い気がするのだが、そういう事らしい。瓦礫類の撤去は恐らく私兵達が手が空いた隙に行っているのだろう。
「この荒れた道は馬車で通るには危険だし、魔獣も出る。それに馬車で通るよりも、足で歩く方が目的の村にも早く着く」
村は意外と関所の近くにあるのだという。
「君達。……一応、数名は除くが」
周囲の六名に向けて総司令官は確認するように問うた。
「軍人である君達は、公爵領地に出没する魔獣如きに手こずるほど鈍っていないよね」
大聖女と祈祷師も、魔獣に対しての対応力や適応力に問題はない。
「わたしもがんばる!」
と、やる気を出す魔女を
「えっとぉ、魔女ちゃんは私と一緒にいましょうねー」
言いつつ大聖女は抱き上げた。
「なんでー?」
わたしも軍人だよ、と訴えるも
「一人で挑んで食べられちゃったら意味ないですからねぇ? ただでさえ狙われやすいんですから」
そう、大聖女に諭される。
「そうですよ、あなたの出る幕じゃありません。足手まといになります」
おまけに補佐官2に辛辣な事を言われ、助けを求めて補佐官1を見るも同意見らしく助け舟を出す様子がない。
それに魔女はショックを受け、大聖女の腕の中で頬を膨らましていじけた。ついでに言うと魔獣殲滅部隊隊長という本業の者まで居るので魔女が手を出さなくとも問題はない。
ともかく。魔獣や色々に気を配りつつも七名は目的の村へ出発した。




