運命と知恵4
魔女達が樹木や目的地の話をしている頃の、もう一方の補佐官1、補佐官2、祈祷師の乗った屋形の中では目の良い者達としての会話が行われていた。
「……それで。私達と彼らを分けた理由は何ですか。監視員長殿」
静かな箱の中で、懐中時計を手にした祈祷師が口を開く。目のような紋様が印象的な代物だ。
『そうだな……どうせ向こうに気付かれているだろうが、君達と話をする為だ』
そう、祈祷師の持っていた懐中時計から声がした。一番上の王弟、もしくは監視員長の声、だ。
監視員である彼らに直接声が掛けられる、と言うことは重要な話だろうかと銀髪眼鏡の方、つまり補佐官2は気を引き締める。金髪の方、補佐官1は魔女達の会話を同じく懐中時計のような魔道具を通して周囲へ聞かせていた。
『大丈夫だよ。彼らは目が良いからすぐに分かる』
そう、音声が流れる。
目が良いことは監視員である事の隠喩だ。誰が言い始めたかは不明だが、上位貴族や高位の軍人の中ではそれでほとんど通じる。
『……そちらの話を流したままで聴けるな?』
問う声に3人は問題ない旨を返した。
『ああ、これはある意味で失敗の話だ』
『本当は聞かせるべき話ではないかもしれない』
『いや、寧ろ聞かせるべき話だろうか』
『ともかく。この話を君達に聞かせる事にした』
『我ら監視員の、副官長の話だ』
『彼はともかく特別に努力家で多才で使える力が多い』
『その上、古い馴染みであり共に監視員を作り上げた者だ』
『だから、信用して“薬術の魔女”の監視と共に“暁の君”の監視も任せていたのだが』
『裏切られてしまった』
『あの“星が落ちた日”の天変地異、そしてそれに続く人々の断裂』
『あれの原因は恐らく“暁の君”だ』
『……ややもすると、彼が関わっていた可能性もある』
『監視を任せた筈なのに、止めずにここまでされてしまったならば、疑いようがないだろう』
『まさか向こうに寝返るとは、思いもしなかった』
「……僕達に、これから何をさせるつもりですか」
話を聞き、補佐官1は監視員長へ問う。だが、返されたのは予想外の言葉だった。
『何も』
何もしなくて良い。
手出しは不要であると。
『彼を出し抜ける者など、“薬術の魔女”か当主級の奇跡の加護を持った者だ』
彼は奇跡の加護を蝕む呪いを使う。その上、宮廷魔術師であり、並大抵の魔術師では術比べではほぼ勝てない。
呪い。つまりは魔術よりも奇跡に近いが、憎悪や怨念等とよろしくない方向の力。
「…………いえ。ただの呪いなら、私は対処できます」
そう、祈祷師は答えた。
『……そうだった、君はできたか』
祈羊の祈祷師だから呪いを打ち消す事ができる。
『……一先ず今は、王命の方に集中していてくれ。それが終わってから、また話そう』
そう言い、監視員長は言葉を続ける。
『彼の裏切りや行動の目的は分からない。だが、彼の弱点は分かりきっている。“薬術の魔女”だ』
そして監視員副官であるその者は、監視員全員の顔を知っていると言う。
『彼女がこちら側にいる限り、下手に動かないだろう』
だからこそ、監視員が彼女の近くにいる限りは何もしない筈だと。
『君達の見守る仕事には補助を入れる。……ともかく、警戒を怠るな』
その言葉を残して、懐中時計は静かになった。




