神からの御告げ
とある日。
『魔女』と魔獣殲滅部隊隊長である魔女の次男は王城に呼び出された。総司令官と、一番上の王弟が登城するよう命令を下したのだ。
国内で最も高貴な身分の者に呼び出されたならば、いくら魔女が窮屈で煌びやかな場所が苦手でも、行くしかない。
魔獣殲滅部隊隊長とともに呼ばれたのは『魔女』なので、本当の魔女と、魔女の影武者の二人が揃う必要があった。それと、魔女の補佐官が二名ともだ。
×
軍部で軽く聞いた話によると、それは『王』からのお告げらしい。王の補佐となった総司令官がそう言っていた。
「それと、他にも数名居る」
数名、とは言いつつも総数は七名である。思いの外少ない。
「(確か、青いものを身に付けてる人には特に礼儀に気を付けなきゃ、だっけ)」
王城に行くにあたり、魔女はふと思い出す。
何かの儀式の折に王城に訪れた際、共に居た誰かがそう教えてくれた。
煌びやかな王城を、案内人の後ろを付いて歩く。
因みに、案内人は彼女の姿を見るなり、『なんだ、小さな子供の女か』としか言いようのない態度でふっと鼻で笑った。
「(——なんだコイツ)」
と、内心で思ったものの顔には出さずに魔女はにこりと笑みを浮かべた。
「ね、あの人いま笑った?」
そう、子供の姿であるのを良い事に、非常に無邪気な様子で手を繋ぐ『魔女』の影武者の長男を見上げる。
「んー、そうだね。きっと、素直な人なんだよ」
同じように、和かに微笑みを返した。その時、案内人はハッと周囲に『魔女』と軍人達が居る事を思い出したのか気不味そうに顔を逸らした。通された部屋で大人しく待つ。良い香りのお茶が出された。
この状況、この性格が悪そうな返しに、少し懐かしさを感じた。
×
「これは天啓だ。王命であるが天命でもある」
目前に現れた、一番上の王弟は告げた。
再度案内されて着いた所は、謁見の広間だ。そこに、宵色の髪の総司令官と、その横にもう一人朱殷色の髪の男性が居た。恐らく、一番上の王弟だろう。
そして、その王弟の朱殷色の髪を見、魔女は自身の卒業式に現れた『誰かの事を『宜しく頼む』と言った王族の誰か』だったのだと思い出した。
「皆、其々に役割や仕事、決まりが有るだろうが、この命令を最優先して欲しい」
少し記憶の中よりも歳を重ねたように見える。関係がないのに何故か、時の進みを今、改めて思い知った。
「おかしな事だとは理解している。だが、急ぎの事らしい」
集まったのは、総司令官と大聖女と、『魔女』と魔女の副官が2名、魔女の次男と絹のような白髪の人物だった。
「……だれ?」
その人物を見上げ、魔女は首を傾げる。
「十字教の祈祷師をしている者です。大聖女の補佐もしています」
その人物は真っ黒な目隠しをし、大きな石の付いた白い杖を持っていた。
「どうぞ、宜しくお願い致します」
カツ、と床を踏む音がする。
「……なんか、会ったことある?」
眉を寄せ、魔女は問うた。
「さて。神は気紛れですから。故に、いつの日か相見えた事も有るでしょう」
だが、奇妙な言い回しではぐらかされてしまう。
「(……なんだこの人)」
祈祷師は詩的な言葉遣いの人のようだった。




