異化8
『魔女の薬が効く』と言われてから、やがて『魔女』はもっと効く薬を作るよう頼まれる。
根が善良な魔女は「やってみる」と、その依頼を受け入れた。
「……大丈夫か母さん。良い薬を大量に作る時にはそれ相応の杖が必要になるらしいんだけど」
三男は心配そうに訊く。息子である三男は、魔女が大きな杖を持っていない事を知っていた。
魔女が所持している杖は、片腕程度の長さの小型の杖だけだ。魔石と植物で構成された、『おばあちゃん』と『黒い人』お手製のものだ。
「なくても平気だよ。今までもそれで作ってたし」
そう、魔女は軽く言う。
「そうかな……」
魔女が棚の品物を取るだけの行為に苦しんでいた様子を見ていたので、三男は訝しげだ。
「よーし。いっぱい作っちゃうぞー」
むん! と腕捲りをして魔女は薬作りに取り掛かる。
×
「……あれ」
だが、
「なんか、違う」
眉尻を下げ、魔女は首を傾げた。
今まで通りに作ったはずなのに、薬の出来があまりよろしくなかった。
何度やっても、上手くいかない。
「な、なんで……?」
『どうにかなる』と楽観視していたが、魔女は焦りを覚えた。
「これじゃだめ。もっと、いい材料を集めなきゃ」
呟き、魔女は庭へ出る。
そこで、魔女は衝撃を受けた。
×
屋敷に留まっている長女と三男は、それぞれで屋敷内の書籍に目を通したり、魔女の薬を分析してみたりして、細やかでも何か魔女の手伝いをしようと試みる。
今日は次男も休日だったので屋敷に訪れていた。次男は、消えた宮廷魔術師や父親の事を調べている。
突如、
「あー!」
と魔女の叫ぶ声がした。
急いで声のした庭へ向かうと、魔女が香花の木の前で立ち竦んでいた。
香花の木が、根元から折れていたのだ。
「だいじ……なのに!」
言いながら、記憶を失っていた頃のように魔女は大粒の涙を零し始める。
「……ほう。外にしては良く育った木だったのだな」
折れた香花の木を見、呪猫当主は感心の言葉を零した。
「杖にしたら?」
と思い付いた様子で長女が提案する。長生きした木は良く魔力を通すので、杖には適していた。その上、主に呪猫に生息する香花の木は、魔力との親和性が高い。
「んじゃあ、作るか」
と三男は提案に乗る。錬金術師は、道具制作の技術が高く、三男も手先が器用で魔術用の杖くらいは制作出来るように資格を持っていた。
「手伝うよ」
そう、次男も言う。次男の残りやすい魔力は固定や圧縮などに向いているので、物作りに適した力だった。
そして、材料をやや節約して尚且つ親和性をより高めるために、魔女の杖を軸に香花の木を巻き付けて作る。
×
それから直ぐに杖が出来上がった。
魔女は非常に上機嫌である。何故なら、それは魔術も魔法も使える杖となったからだ。
魔力を通すと杖から香花の花が咲き、良い香りが周囲に広がる。魔力行使が終わると、はらはらと散った。




