異化4
「――お義兄様は、お義母様のお手伝いですか」
魔獣殲滅部隊の執務室で、副隊長は机に座った魔女の次男に聞いた。『お義兄様』が魔女の長男、『お義母様』が魔女の事である。副隊長は魔女の次男の伴侶でもあるので、魔女の次男も誰を指しているのかは理解できた。(ただ、それを公表していないので他の人には分からないだろう。)
敢えて役職で呼ばないことで、誰かに聞かれていても問題が無いよう配慮しているようだ。
「流石に気付いたか」
そうだろうな、と思いつつも魔女の次男は苦笑いをする。
実は、副隊長には『魔女』が影武者と入れ替わっている事を伏せていた。用心に用心を重ねての事だ。副隊長もそれは理解してくれるだろう。
「無論です。私は目が良いので」
お茶を淹れつつ、彼女は少し得意そうな声色で答えた。
「そうだね」
と同意しつつ、魔女の補佐官達も確か同様に目が良いのだったなと思い直す。『魔女』を見張るため、あるいは周囲に安心を与えるための監視役。
魔女の次男としては、自身の育ての父親の方が魔女の事を見ているので彼が監視を行なった方が早いのではと思った事は幾度かある。ただの宮廷魔術師にしてはそこいらの監視役よりも向いているだろう。
それはともかく。
「……どうしたものか」
受け取ったお茶に視線を落とし、小さく息を吐いた。緑の水面に映る自身の目は、やはり異形となっている。
「しばらく、遮光眼鏡で隠します?」
首を傾げる副隊長は、軽い様子で提案した。
「それは先程も君は言っていたけれど……」
急に変えるのはどうだろうか、と思ってしまう。
「……っ!」
「どうしました?」
急に走った手の痛みに、魔女の次男は顔をしかめた。赤裂ができたかのような、小さくも鋭い痛みだ。
「少し手がね。……ここでは流石に憚る。後にしよう」
確認しようと手袋に触れた時、ここが外だというのを思い出した。
ちら、と自身の側に控える自身の補佐官を見る。閉じ目気味の彼女は特に違和感を覚えていないように見えた。
「なんですか?」
「……君は、大丈夫なのか」
見えない変化があるかもと思い問うてみる。
「はい。何も、変な所はないですよ」
だが、やはり見た目通り妙な所は無いらしい。彼女の申告は基本的に正直なので、それを信じている。それに、動作にも異変は無かった。
×
それから業務を終え、夕方、二人はどうにか自宅へ帰る。世界が変わり忙しくなってからは交代で自宅へ帰っていたが、今回は上手く理由を作って二人共に休むようにした。逆に隊員の方から積極的に休むべきだと喜ばれてしまった。働き過ぎだとかなんとか。
時間をずらしたり別の道筋や魔術を使ったりして自宅へ戻るので、二人共に自宅へ就くには時差が生じた。
二人が揃い、それから昼間の痛みの正体を探る。
そっと、魔女の次男が自身の分厚い手袋を外した。
すると。
「あ……肌、が……」
伴侶である副隊長が驚きの声を上げた。
「鱗、か」
思いの外、冷静な声が出る。
魔女の次男の手には、蛇の家とは違う、ひび割れのような固い鱗が生えていた。




