異化
魔女の次男が率いる魔獣殲滅部隊は森からの撤退を終え、人員の欠けが無いか点呼をして軍部へと戻る。見回りを兼ねたその道中、軍部施設へ向かうに連れて妙な胸騒ぎがした。
ちらりと見えた、市民達の様子が気になる。
「……気になりますか」
「ああ、少しね。何だか、嫌な感じがする」
問い掛ける声に、迷いも見せず頷いた。だが、声を掛けようにも、瞳孔が細く縦に裂けたこの目では市民を怖がらせてしまいそうだった。
それに、この魔獣殲滅部隊は魔獣を殲滅する為の部隊であり、魔獣が直接関わっていない事態にはあまり強く関われない。
逡巡している間に、警邏らしき軍人が駆け寄って行くのが見えた。少し安堵し、施設へ向かう。
「隊長さん、やはり貴方の目の様子がおかしいです」
施設内にある自身の執務室へ着いた時、補佐官でもある殲滅部隊副隊長に断言された。
「そうかな」
顔を両手で固定されて、眼鏡越しに真っ直ぐに見つめられる。その手は、本気を出さなくとも容易に振り払える程に細く力も込められていない。
「そうです。診てもらった方が良いですよ」
だが、珍しく焦っている副隊長の様子を見て、相当に奇妙な様子なのだろうと察する。
「私自身は、あまり違和感はないんだが……」
変化をしたばかりの瞬間は熱くて痛かったが、今はなんともない。寧ろ、よく見える。
「……」
「どうしました、隊長さん」
首を傾げる副隊長には、異常は無いように見える。
だが、
「…………眩しい」
「え?」
思わず呟いた言葉に、副隊長は首を傾げた。それは聞こえなかったからではない。冗談のような言葉を、至極真面目な様子で零したように感じたからだ。
魔女の次男には、目の前の彼女が輝いているように感じたのだ。それは比喩や冗談ではなく、歴とした事実として物理的に眩しかった。
「何故だか君が光っているように見えるんだ。これは冗談や悪ふざけではない。……できれば、その輝きを仕舞って欲しい」
「言われても困ります」
目元を抑え本当に困っているらしい様子に、副隊長は眉尻を下げる。
「そうです。遮光眼鏡とかどうですか? ひとまず、私の眼鏡は邪眼封じのそれですが」
言いつつ副隊長は眼鏡を外した。
「うわっ」
「どうしました?」
すると、魔女の次男は反射的に下がる。そして
「……その目だ」
「?」
顔を背けながら告げた。
「君の目、というよりその魔力が眩しい」
よく分からないが、副隊長の魔力が眩しいらしい。
「じゃあなおさら眼鏡を。お試しです」
そう言い、副隊長は目を塞ぐその手に眼鏡を軽く握らせる。
「……うん。眩しさが減ったように感じる」
「じゃあ、軍医中将さんに眼鏡を作ってもらいましょう」
眼鏡を掛けたのちの言葉に満足そうに頷き、副隊長は提案をする。




