儀式の代償
「……扨。約束は果たしましたよ、『覚醒者』」
黒いローブの男は、とある場所に青年を横たえる。
青白い顔で、ぐったりとしているが呼吸はしている。
ギリギリ生きているような状態だ。
この場所は以前『元勇者』と『覚醒者』を打ちのめした場所だ。現れる場に元勇者が待ち構えていたら面倒だと思いつつも、約束の通りの場所に出た。
警戒をしても敵意や害意の類いは感じられず、少し安堵する。
ほんの少しの魔獣除けと簡易的な食事、武器を置いて黒いローブの男は去った。
×
とうとう、あの転生者の王弟は自身の希望の意味を知った。
立ち塞がるもの、除外せねばならないもの、必要なもの。その他色々も。
それと魔術師の扱い方についても、少し助言しておいた。これで暫くは扱い易くなるだろうし、静かになるだろう。
『星が落ちた日』。つまりは世界が変わるきっかけとなったあの日、男は伴侶に告げた通りに熊公爵の地に居た。
その地の端は、実はこの国の物理的な中心地になっている。だからこそ、男はそこを選んだ。他に他意はない。
そして、男は誘導の役でもあった。
天からこぼれ落ち地を穿つ『種』の。
きちんと誘導し終えて、去ろうとした時に予想外にも生き残りがおりそれを拾ったのだがまあそれは関係のない話だ。
男が『塔の悪魔』を使った理由は、それが塔を作る能力を保持していると知っていたからだ。
世界を破壊すれば、必ず巻き込まれて死ぬ者が現れる。だから、塔で変化に巻き込まれた人間を確保し、死なないようにした。
その代わり、『塔の悪魔』本来の能力で人間を分断させてしまったが。まさか、人種を変えるとは思いもしなかった。
ともかく、一先ず男は成し遂げた。
『おばあちゃん』の望み通りに、無闇に命を散らさない事を。
『黒い人』の望み通りに、なるべく速く世界を破壊する事を。
これで、緩んで軋んだ世界の隙間から『熱』を引き摺り出す手筈は整ったのだ。




