思わぬ変貌。
それから数日も経たぬ間に、『魔女』の訪れた熊公爵の地にまるで塔のような巨大な樹木が生えた。
前兆などなく、突然に。
今までに発見されたどの植物よりも巨大で頑丈なそれは、魔獣の一部かもしれないと言われていた。だが、植物型の魔獣は、墨で塗りつぶしたかの様に幹も葉も枝も全て黒いはずだった。
あの塔の様な巨大樹木は大きさと葉の色を除けば、普通の植物の様に見える。
ただ、葉は淡く輝く桃色をしていた。
×
「……やけに静かだな」
魔獣殲滅部隊隊長である魔女の次男は呟く。
現在、次男は普段通りに、魔獣減らしの仕事の最中だった。
災害の不安を軽減する為にも、魔獣が出没する森に入って人を襲う魔獣を駆除する予定だったのだ。
しかし、普段よりも何故だか魔獣に遭遇しない。全くと言っていいほどに、魔獣が見当たらなかった。
「……隊長さん。一度退きますか」
濡羽色の髪の男性、の様な姿をした女性。つまりは魔獣殲滅部隊の副隊長が小さな声で問い掛ける。
「そうしようか。これ以上、深く入って逆に怪我をしてしまったら仕様がない」
頷き、次男は隊員達へ撤退を命じた。
「あの『星が落ちた日』から、それなりに日が経ちますが」
撤退の最中、副隊長は呟くような声で次男に話し掛ける。
「依然、行方不明者は見つからず。寧ろ、増えるばかりですね」
話し掛けているものの、伏し目がちな目は周囲を警戒している様子で鋭い。
「ああ。『魔獣に襲われた』なんて話を一切聞かなくなった事も、不気味だ」
答えつつ、次男は自身の目に違和感を覚えていた。
目だけではない。以前より、感覚が鋭くなったような気がしてならなかった。
その違和感は、よく思い返せば『星が落ちた日』からずっと微弱ながらにあったものだ。
初めは小さな違和感だった。
なんだか熱い、なんだか痛い、ひりひりする、やけに乾く、よく聴こえる、においがよく分かる、味覚が変わった気がする……など。
今日はやけにその違和感が強い、と思っていた。
「ぅぐっ?!」
森を抜ける前、走った痛みに次男は思わず立ち止まり目元を抑えた。目が、燃えるように熱を持つ。
「隊長さん?!」
副隊長は慌てて側に駆け寄った。
「目薬、氷嚢、何か用意を……!」
そのまま、ごそごそと腰に提げた鞄から道具を取り出そうとする。
「いや、問題ない。少し、驚いただけだ」
それを止めようと、次男が顔を上げた時。
「……え?」
伏し目がちな副隊長の目が、丸く見開かれていた。
「……どうした。もしかして、何か私には分からない怪我でもしている?」
問えば、副隊長は困ったような表情で手鏡を差し出す。
受け取り、自身の目を見ると
「……これは」
鰐の様に縦に裂けた、明らかに人間のものではない虹彩が、こちらを見ていた。




