思わぬ変化。
「おじさん、説明しなきゃ分かんないよ」
やや呆れた様子で、次女は霞色の何かに声を掛ける。何かは煙のような靄のような形状で、曖昧な状態に見えた。
「ふむ……其れもそうか」
次女の言葉を受け、霞色の何かは少々思考するかのように静かになる。
「うすむらさきのねこちゃん?」
煙管から現れた霞色の何かを見上げ、魔女は小首を傾げた。
「薄紫のねこちゃんでは無い。霞色だ」
そう霞色の何かが答えた時、それが急に、ぽん、と音を立てて縮んだ。
「おじさん?!」
「やっぱり! うすむらさきのねこちゃん!」
慌てる次女を他所に、縮んだそれを見て、魔女は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「……やや格好が付かぬが、良いだろう。形が安定して助かる」
縮んだそれは、随分とデフォルメチックな可愛らしい猫の姿になっていた。
「一先ず、私の領地で起きた事だけを伝えておこうか」
可愛らしい姿になってしまったものの、呪猫当主は子供達に呪猫で起こった事を話す。
突如、呪猫当主に強力な呪いが土地を囲う護り全てを擦り抜け肉体を襲ったのだという。
「前触れすら一切も無く、だ。久々に驚かされたよ」
呪猫当主は遠過ぎない国の未来を視て、国を護る。そして、当主の存在が国を護る結界の要になっているのだ。
だから、呪猫当主が倒れた影響で国の護りが一瞬緩み、その隙を突く形で途端に天変地異が起こったらしい。
「もう一つ。此の姿の事だが」
どうやら、呪いが身体を蝕む前に魂だけを、従えていた獣が助けてくれたのだという。
「簡単に言えば、現状の私は従えていた獣を纏っている状態だ」
そして、纏った獣が居なくなると本当に死んでしまうと続けた。
「混ざっている訳では無いのでね。現状では真面に魔術は使えぬ上、強い衝撃が有れば剥がれるとも」
それでも、呪いに蝕まれた肉体に戻るよりは安全なのだ。ついでに言えば肉体は現在解呪している最中だと言う。
呪いをかけた相手は分かっているらしく、呪猫当主は術師の居場所を探っているらしい。
「然し……ふむ。弟の奥方、妖精の子よ。変わったな」
見下ろし、呪猫当主は目を細めた。
「なぁに?」
ぱちくり、と瞬きをするその姿はどう見ても初等部以下の幼児である。
「よくわかんないけど、小さくなったんだって」
それと、伴侶の事を忘れているらしい事も次女は告げた。
「…………肉体が殆ど無くなっておるな」
じ、と見つめ、呪猫当主は少々険しい表情になる。
「……そうか。其の積もりだったか、あの馬鹿者は」
呪猫からこの場所に着くまでの道中で、姿は外に出さなかったものの世界の様子を視ていた。
天と地が穿たれ混ざり始め、色々が不安定になってしまった世界の事を。
「其方達は僅かばかりに呪猫の血が流れておるが魂が人間だから影響は無い」
周囲の『魔女と悪魔の子』達に、視線を向ける。
「呪猫の姓を継いで居らぬ処も又、運が良い」
強いて言えば、養子の子が本来の家名を名乗っている事が気掛かりだが、あれぐらい薄まった血ならば問題はないと視線を外した。
「此れから、世界が変容するぞ」
今よりももっと、更に変わっていくと、呪猫当主は告げた。
「価値観が大きく変わるだろう。取り残されぬ様にな」




