溢れる奇跡。
外周をぐるりと一周してみるが、陥没した地の周辺に動植物の姿などは無かった。
「確かこの村は……周辺に川があって、畜産と農業、果樹栽培が盛んだった筈」
それと、少し離れた位置に山が在るので少しの林業で生計を立てていたらしい。
「全部、台無しじゃないか」
顔をしかめ、長男は言葉を零した。
本当に、陥没した地面と更地しかなかったのだから。『村があった』なんて言われても信じられない程に、全てがなくなっていた。
この様子だと、村人は誰一人も助かっていないだろう。
「……地面の様子がおかしい」
違和感を覚え、長男は視線を下に向ける。
キラキラ煌めく破片の散らばる地は、まるで星祭りの山中のようだった。
「不安定……なのか? なんだか落ち着かない」
ふと小さくなった魔女に視線を向けるが、ただ興味深そうに地面を、てしてし、と踏み締めて居るだけだ。長男の様に、不快そうな様子は見えない。
「それに」
次に長男は、やけに高い空を見上げた。
「ずっと夜明け前みたいだ」
薄明るくて煌めく星の散らばる天が、まるで星祭りの夜空のような有様で。
ずっと、星祭りの会場に居るかのような心地になる。
「……『星が降って来た』、って言われてもこれなら信じるかもなぁ」
視線を手元に落とし、拾った星空のような石を眺めながら長男は呟く。
×
「どこもかしこも、やっぱり酷い有り様だなぁ……母さんもそう思うだろ?」
陥没した場所は、中心地に行くほど温度が高くなっていて近付けなかった。だから、今度はその周辺の更地を見て回る。
「……」
見下ろすと、魔女は神妙な顔をしていた。
「どうしたの」
問うても表情は変わらない。不思議に思っているうちに
「っ!」
「あっ! ちょっと待て!」
魔女が繋いている手からするりと抜け出して、小さな手足を動かして駆けて行く。
「急に、どうしたの」
少し追い掛けると、今度は立ち止まって周囲を見回していた。
そして、一心不乱に地面を掘り始めた。
「てつだって!」
疑問に思う間も無く、魔女が叫ぶ。その言葉に思わず、長男はその近くを掘り始めた。
「母さんは掘らなくていい! 俺がやるから、場所の指示をして!」
指先を魔術で補強して、再度掘る。
と、
「…………腕?」
柔らかい肉と肌が見えた。肌は赤黒いものに染まっていて、血の臭いが広がる。
そうして、長男は子供を地面から取り上げた。薄く呼吸をしているものの火傷と裂傷等が酷く、生きているのが奇跡に思える。
「……たすける」
魔女は呟いた。
「今の母さんに出来る?」
軍医中将とはいえ、今は子供の姿をしている。おまけに、記憶にも障害があった。だから、長男は念を押して問う。
「やる! やるもん! できるもん!」
叫ぶその様子に、何故か大丈夫だと思えた。魔女なら、この子供を助けられるだろうと。
「よし分かった。いい感じに周囲の情報も取れたし、じゃあさっさと帰ろう」
「だいじょうぶ?」
「大丈夫だって。おばあちゃんのお守り持たせて保護魔術掛ければ問題ない。ここで死ぬ天命じゃなきゃ死なないよ」
「ん」
そうして『魔女』は、子供を持ち帰った。




