彼の地で。
「どうしてこうなった」
やけに高い青空の下、長男は項垂れる。
「すごーいねー」
その長男の腕の中で、魔女は、ぱちぱちと丸い目で瞬きをした。
「そうだね母さん。……まるで爆心地だ」
周囲へ視線を巡らせ、長男は同意する。魔女とその長男は現在、『熊公爵』と呼ばれる公爵の地に居た。
正しくは熊公爵の地に在る、一つの村が有った筈の場所。
「っていうか。どーして、そーなったんだよー母さーん」
はぁー、と、深く溜息を吐き長男は肩を落とした。戸惑い、困惑に呆れと感心を抱く。
熊公爵の地へ派遣されたのは、魔女の家族であり重要な役割も担っていなかった魔女の長男だった。
姿も目の色以外、殆ど魔女と似ており、途中で軍人や一般人に見られても誤魔化しが効くだろうと言われたのだ。
「なぁに?」
小首を傾げる様子は、見た者を虜にしてしまいそうな可愛さがある。まあ、実の息子なので効かないのだが。
「父さんが言ってた『妖精の魂』とかそこいらが原因かなぁ?」
腕の下に手を通して持ち直し、向かい合わせるように持ち上げる。そして「母さん自身はどう思う?」そう、目線を合わせ問うと
「……」
魔女の薄赤い目に涙が溜まり始め、ずび、と鼻を啜った。
「あー、もう。一番父さんに似てないとはいえ、顔見られる度に泣かれるのはちょっとしんどいな」
ぐずり始めた魔女に、眉尻を下げて長男は呟く。
「目の色しか似てないだろ?」
「う゛ー」
問うても、魔女はふるふると首を振るだけだ。
「あーあ、泣かない泣かない、よーしよし。……まさかこんな介護になるとはね」
抱え直し、長男は魔女の背中をとんとん、と軽く叩いてあやす。
「うちの子供よりもちっちゃくなってさぁー」
と、ふくふくした頬を指の背でつつく。
「む」
少し頬を膨らまし、眉を寄せた。
「うっわ、凄いほっぺたぷにぷにじゃん。うちの子と全然違うわ……ってそこは後でで良いか」
そっと魔女を突く事を止め、長男は再度周囲を見渡す。
「本当に、父さんはこの場所に何の用事だったんだ」
「……いや、正しくは『一体何をしたんだ』って訊くべきか」
長男は呟いた。
——長閑だった地は、更地になっていた。
よく見れば、円形に陥没している。まるで、巨大な何かが地に落ちたかのように。
「……」
屈んで地に触れて見る。ただの土、のような気がするが、なんだか表面が滑らかな石がちらほらと見えた。
「なんだ、これ」
見つけたそれを拾い上げ、じっと見つめる。
それは、星空かのように白い粒の混ざる透き通った石だった。表面はなんだか滑らかで、不純物を内包しているようにも気泡が入っているようにも見える。
中心地の方が更に、その石らしき煌めきが在るように見えた。
「ひとまず、周囲一帯を見て回るからね母さん」
「ん」
手を離さないでくれよ、と呟きつつ地面に下ろした魔女の手首をそっと掴んでゆっくり歩き出す。




