その結末。
夜中に天変地異が起こった。
文字通りの天変と地異。天空に起こる変動と地上に起こる変異が、世界を壊した。
眠っていた魔女も叩き起こされ、軍部より呼び出された。急いで準備を済ませて彼女は外へ飛び出す。
星祭りの日のように、鮮やかで美しい満天の星が天空を多い尽くしているそれが印象的だった。
×
軍部に着いた魔女は、自身や軍医の部署が持っている薬品や道具、色々全てを提供する。
そういう役職だからだ。
でも、魔女は家族のことが心配だった。
それから少しして軍人の長男と次男から、自身とその身内が無事であると連絡があった。少し遅れて、魔術師の長女と錬金術師の三男からも無事だと返事がきた。
次女は……呪猫に居る。あそこは結界が二重に張られており、腕の良い魔術師達が沢山居る土地だ。『黒い人』の不可侵領域の森も近いし、何より夫の兄である国で最も優れた魔術師の当主が居る。だからきっと、大丈夫。今は忙しくて連絡が出来ないのだろうと判断する。
これからもっと怪我人が出るだろう事を想定して、軍部の医療施設や設備をいつでも使えるよう、補佐官2人に指示を飛ばし、宮廷もいつでも開けられるように交渉を行った。
また、時が進むにつれ一番被害が酷かった場所の話が出回り始める。
場所は、熊公爵の土地だと。
一つ、村が消し飛んだのだという。被害の状況を鑑みるに、住人はひとたまりもないだろうと。
中には一番マシな土地だと不謹慎ながら安堵する者もいた。
何やら聞き覚えのある場所だと、魔女は血の気が引いていく。
少しして、次女から『自分は無事』だと連絡があった。だが、何かがおかしい気がした。声が震えているのだ。理由を問うと、
『……おじさんが』
呪猫当主が倒れたのだと、次女は言った。
誰かに強力な呪詛をかけられてその処置をしているのだと。
そして、魔女は夫からの連絡が未だに無い事に焦りを感じていた。
焦りながらも的確に、人々へ処置を施していると「ひとまず家に帰れ」と同僚の男に言われ強制的に帰還させられる。
魔女が、非常に蒼白な顔をしていたからだ。
×
屋敷へ戻ると、夫の気配がない事に気付く。
今日が出張の日だと思い出し。
出張先と被害が酷かった場所の話を思い出す。
「……」
不安に押しつぶされそうになった。
それから連絡が入る。魔女の伴侶を含めて数名の宮廷魔術師が行方不明になったと。その彼らが生きているかは、分からないと。
子供達や友人達は生きている。自分も含めて。
だけど、あの人だけが居ない。
家の中を歩いているうちに、ふと、魔女は違和感に気付く。
うちにある物が、幾つか減っている。
「まさか」
魔女は夫婦寝室に入る。
この部屋も、何かが足りない。でも、何が足りないのかが分からない。
次に、彼の私室の扉を無理矢理開く。と。
「…………ない」
空っぽだった。
彼の所持していた本達が。
「ない」
あんなに所狭しと並んでいた、魔術や呪術の道具に研究の資料も全て。
「ない」
もう一つの部屋にも、当然何も無い。
お風呂の道具も
「ない」
食器も
「ない」
衣服の一片すらも。
「…………無い」
感じていた違和感の正体が、分かってしまった。
夫の私物が全て消えていた事だったのだ。
そして、それ故に夫は意図的に姿を消したのだと気付いてしまった。
慌てて、彼女は自身の衣類棚の中を漁る。
「……あった」
心底安堵した声色で、魔女は言葉を零した。
引きずり出したものは、彼がくれた捨てるはずだった白いローブ。
ぎゅっと抱きしめれば、彼の匂いがした。
魔力の気配だってする。
……でも、温もりがない。
喉がきゅうっと痛くなる。胸も、締め付けられたように痛い。
「…………き」
呟く声が震える。身体に力が入らず、へたりとその場に座り込んだ。
「……うそつき」
なんで、こんな時に近くに居ないの。
「うそつき」
ずっと側に居るって言ってたくせに。
「うそつき!」
様々な感情がない交ぜになって、
「——う、」
魔女は声をあげて泣き出した。




