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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
二人の生活

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318/600

強く在る者、或いは強者の会話。


 朱殷色の髪の男は、親類の中でも()()()()()()()()()特別な場に向け足を運ぶ。


 住処であり仕事の場である建物を(くだ)った。

 ()()には、神殿のように荘厳な石造りの開けた空間が在る。

 その最奥へ更に歩みを進め、止めた。


「……久しぶり、でもないか」


 話し掛け、男は小さく苦笑する。


「ついこの間も、或いは毎朝、祈りの度に会っているからなぁ」


 ()()()()()()()()()()、久しぶりだったと言い直した。


「どうせ、知っているだろうが、廃嫡することに決めた」


 そのまま男は言葉を続ける。


「代行を降りる」


今度は言い聞かせるように、少し言葉をゆっくり告げた。


「『正気か』と周りには言われたよ。『よくもこう長く勤められましたね』と嫌味を言う奴も居たが」


頭を掻き、やや恥じた様子で少し下を向く。


「本当に、その通りだと思う。学生時代は仕事を全て丸投げして遊んでいた訳だからな」


 そう言った後、驚いたように目を僅かに見開く。


「……そんな事は無い、とでも言うつもりか?」


戸惑い視線を泳がせ、僅かに嬉しそうに口元を緩めた。


「とにかく、俺は代行()辞める」


 もう決めた事であり決まった事だ。だから変える事は出来ないし、もう取り止めるつもりも無い。


「そして、俺の後任は末の弟がふさわしいだろう」


そうだろう、と言いた気に()()に視線を向ける。


「あいつは周囲に惑わされる事なく、正しい道を進んでいけるだろう」


と理由を述べた。あの真っ直ぐな末の弟なら、次までは間違いなく()つ筈だからだ。


「やはり。俺はああいう()()()()()のには向いていないんだ」


 視線を横にずらした。


「『ずっと正しく在る』なんて無理だ。現に、少し危ない時があった。……まあ、貴方は知っているのだろうが」


 それから、男は口を閉ざす。


「……星見台や鍛冶屋でも、やってみようかと思っているんだ」


 少しして、男は再び口を開いた。


「俺が為政よりも、ものづくりの方が好きだったなんて知らなかっただろう」


揶揄(からか)いの混じる声で問い「それとも、既に知っていたか」と、小さく笑う。


「星……空を見るのも、それなりに好きなんだ」


 いつもは、星以外を見ている。視ているし、観て、異変が起こらぬよう診ていた。


「勿論、監視員は止めないし『王の影』としての役割を放棄するつもりもない」


きっぱりと言い切り、


「……アイツは、大丈夫だろうか」


すぐ下の弟の事が頭に(よぎ)る。


「最近、様子が……いや。言う必要は無かったか」


知っているんだもんな、と少し寂しそうに呟いた。


「そうだな。アイツは人を惹きつける魅力があるのは確かだ」


 男は頷き


「……2人で、協力し合えたら良かったんだがなぁ」


心底残念そうに肩を落とす。


「悪い、そろそろ時間だ。次はもう少し明るい話題を持ってくる」


 一言謝り、男は踵を返した。


 男が見ていた場所には、国の(くさび)の為に(はりつけ)になった男がただ居るだけだ。

 王に成った瞬間から、ずっと。


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