総司令官という人。
「記録と共有事項の漏れは大丈夫かな? ……では、これで会議は終わりだ。各人、忙しいところ時間を取らせて済まなかったね」
総司令官は、会議の終了を告げ集まった上役達へ言葉を投げ掛ける。そうすれば、周囲の張り詰めていた空気感が少し緩んだ。あからさまな談笑を交える者は居なかったが、やはり軍人と言えどもずっと緊張しっぱなしは辛いのだろう。
緩んだ空気感に内心で魔女はほっと一息つく。心配性な補佐官2が小突く事は無かったので周囲にはバレていないようだ。
「そうだ。軍医中将……人事中将、少し残るように。話がある」
荷物をまとめていた二人へ、総司令官より声を掛けられた。「はい」「承知致しました」と二人はそれぞれで返事をする。答えながらも魔女は共に返事をした人事中将基魔女の同僚の男に『心当たりはあるか』と、ちら、と視線を向けた。だが魔女の同僚の男は、やや肩をすくめただけだ。
そして「今回は、補佐官や補助が居なくても良いだろうか」と、総司令官は魔女へ告げる。その様子に、なんだか珍しいこともあるのなぁと魔女は呑気に思っていた。
×
上役の軍人やその秘書官や補佐官のような補助達、記録係等が居なくなった。盗聴や色々の魔術式等も発動できないように、魔道具や色々を確認する。
「それで。用事って、どうしたの」
と、魔女は宵色の髪を持つ男へ問いかけた。
この軍の総司令官は、かなり魔女と年齢が近く意外と良好な間柄を持っている。具体的に言えば、2歳程度、総司令官の方が年上だ。
「そーしれーかんがわざわざ呼び止めるなんて滅多に無いし」
魔女は少し首を傾げる。
やや私的な瞬間では、魔女は総司令官を『そーしれーかん』と呼んでいた。
だが、その総司令官は王の、末の弟である。
その少し(どころでは無い)不敬に、一緒にいる魔女の同僚の男は内心で冷や汗をかいていた。「(魔女の周囲への興味の無さっていうか肝の太さスッゲーなぁ)」とやや遠い目をしている。
身分的な話をすると、遠い目をしている男も元々は異国の王族であるので似たようなものなのだが。
「……もしや、あまり他人に言えないようなかなり危険な内容ですか」
そう、魔女の同僚の男は静かに問い掛ける。というか基本的に正直者の魔女と、契約上絶対に裏切れない元王族の二人が揃っているので、間違いなくそんな二人を信頼した上での話なのだろう。
「……そう。その上、少しばかり個人的な内容なんだ」
総司令官は静かに頷き肯定した。
それを聞き、魔女も魔女の同僚の男も気を引き締める。
「…………」
そして語り出した。
最近、様子がおかしいらしい、総司令官自身の兄達の話を。




