魔女の部下の話4。
煌めく銀髪に眼鏡を掛けた方、つまり補佐官2は補佐官1から『畑で草抜きをする魔女を、無事見つけた』との連絡を受けた。一先ず、大変な事態になっていない事に安堵する。
「面倒がなくて良かった」
聞くと、魔女が雑草を抜いていたのは、やがて小型の魔獣を呼び寄せてしまうからだとか。魔女なりにきちんと理由はあったらしい。
魔女は、変な行動はするが意味があり、無駄はしない。少々抜けたところがあり、うっかり報告を忘れるところは直して欲しいのだが。
少し常識から外れた行動をするものの、大事には至らない程度で済ますそこは、許容というか感心する補佐官2だった。
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補佐官2は死犬の孤児院から引き取られた子供だった。
死犬は領土の80%程度が全て墓地や移動用の通路、広場や公園になっており、生きた人が殆ど居ない土地だ。
残りの土地は何故か尽きる事のない墓石の採掘場と火葬場、不可侵領域の森がある。
生きた人間が住む場所など、唯一の死犬の出入り口の周囲だけだ。
そして、そこには古びた大きな屋敷と飾り気のない質素な教会、大きめの孤児院がある。
死犬の孤児院は、どこにも預かってもらえなかった者達が最終的に辿り着くところだ。だから、中々にお利口ではない子供が多かったように思う。
観光資源も碌になく領主がお人好しだから、死犬は常に金がなく死犬にある唯一の孤児院でも、生活は質素だった。
だから、真っ先に働いて金を稼ごうと監視員の施設へ行ったのだ。
「……」
仕事の不備がないか念入りに確認して、魔女ともう一人の補佐官が戻るのを待つ。
実際、働いて得た金を死犬へ送っても『せっかくの好意をありがとう。でも次からは自分のために使ってね』と言われるので少し困っている。
自分の為に、と言われて数年が経つも未だに使い道が見出せていない。
とりあえず仕事も嫌ではないから、今の所やめるつもりもない。
「……はぁ」
帰ってくるのが遅い、と小さく呟きながら補佐官2は眼鏡の手入れを行おうと思い至る。
眼鏡を外せば、輝く目が顕になり、よく見える視界の情報が、脳に過剰な情報を寄越した。
補佐官2は、ただ相手に制限を掛けられる程度の普通の邪眼持ちであった。だが、夜の落とし子のような全てを消し去る完璧な邪眼ではない。
確か、魔女の血縁でない息子と結婚したのだったか。
改めて、補佐官2は眼鏡に視線を向ける。
この眼鏡は、魔女が作ったものだ。
効力は『強力な魔力視を封じる』こと。話によると、依頼されて夜の落とし子のために作ったらしい。
完璧な邪眼を封じられる代物だから、補佐官2の普通の邪眼を封じることくらい容易なのは当然の話だ。
「帰ってきたよー」
と、扉の開く音と共に魔女の声がした。
ようやく来たか、と思いながら時計へ視線を向ける。今から会議の場へ向かっても、やや余裕がある頃合いだった。




