魔女の部下の話2。
補佐官は基本的に軍部ではなく魔女の方に従事しており、軍部の他の者、例えば総司令官や大将、他中将などの命には従わなくて良いとされる。なので、
「あれ持ってきてくれる?」
「あれの用意大丈夫?」
等、魔女のお願い上聞く事が主だ。
基本的に『あれ』だの『それ』だの、指示語で示される事が多いが、何故か魔女が何を示しているのか理解出来る。それが少し不思議で不可解であり、やや不気味であった。
それでいて、監視員でもある為に魔女と共に行動する事が多い。なので、魔女の気まぐれや思い付きに引っ張り回される事もある。
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「だから、あらゆる監視員が『魔女』から逃げ出したのか?」
と銀髪眼鏡、要は補佐官2が呟いた。頭が痛いと言わんばかりに顔をしかめ、眼鏡をややずらして目頭を抑えている。
因みに、この補佐官2が身に付けている眼鏡はとある理由で魔女に作ってもらったものだ。
「どうでしょう。僕はあまり気にならないですが」
そう金髪の方、つまり補佐官1が返す。
のんびり屋な補佐官1は、自由奔放気味でやや行き当たりばったりの判断を行う魔女とは比較的気が合った。
補佐官1は何も貰っていないので、眼鏡を貰ったそれが少し羨ましく思っている。
補佐官1と補佐官2が現在いる場所は、魔女の執務室の奥にある、補佐官用の仕事部屋だ。主に書類の制作や情報検索等で使う。
魔女は現在執務室には居らず、ふらふらと施設内をほっつき歩いているところだ。監視員二人がかりでも、いつのまにか追跡を振り切られていた。
監視員としての本来の仕事としてはお世辞にも成功とは言えないのだが、なぜか監視員長や副官からは『監視員の仕事をついでとして不自然でない程度に活動せよ』と言われているので問題はない。
「そもそも、どうして監視員の監視から逃げられる」
深く溜息を吐き、補佐官2は「理解が出来ない」と険しい顔をする。
「原因はよくわかりませんが、見失っても僕達の落ち度にならないのはありがたいですよね」
と補佐官1は楽観的に言う。勿論、それなりに優秀な監視員としてのプライドは無事では無い。
だが、仕方がないのだ。
魔女は視界や感知から揺らいで消えるのだから。
どうして、『魔女』は監視員に監視されているのか。
そう問われた時、『恐ろしい兵器を作り上げたからだ』とただの一般人や監視員なら答えるだろう。
確かに、魔女は恐ろしいほどに強力な兵器を作り上げ人物だ。
だが、魔女は何を考えているかはわからないが、基本は優しくて『良い子』だ。だからそれを自ら悪用はしないだろうと補佐官の二人には判る。
きっと、魔女の監視は基本的に周囲を安心させる為の安心材料であって、魔女は監視されているのだと知らしめる事で、安易に拐われないようにする抑止力なのだろう。




