魔女の部下の話。
補佐官から手渡された書類を受け取り、執務室の椅子に座ったままでそれに目を通す。それには、軍部施設内で使用された医薬品の状態や在庫数、医療実験の結果、効果……等、様々な事が記されていた。
「本日の予定は……」
と、別の補佐官が今日の予定を読み上げる。
補佐官は魔女を軍医中将として支えるための頭脳であるが、同時に秘書官でもあるのだ。
それを聞きながら、魔女は「(あの薬草、そろそろ収穫期かなぁ)」と想いを巡らせていた。
魔女には二人、部下が居る。
片方が滑らかな金髪の無駄に顔がいい男性で、主に医療技術や道具に関連する業務の補佐官。性格はおっとり系。
もう片方は煌めく銀髪に眼鏡を掛けた男性で、主に医療行為や記録に関連する業務の補佐官。真面目で無駄が嫌い。
双方共にかなり有能な人であり、顔も良いので外部から人気らしい。
「……」
ちら、と魔女は二人の顔を盗み見る。
顔は、覚えていた。見分けはつく。一応、名前もわかった。
数度、覚えようとしたから、判断はできる。
大丈夫そうだな、と一瞬で判断し今度こそ、ちゃんと書類に視線を向けた。予定をもう一度聞くと、溜息が返される。
因みに魔女は一応部下なので二人の顔と名前は覚えているが、内心で『補佐官1くん』と『補佐官2くん』と呼んでいた。
ついでに言うと一人で書類整理するとき等にも魔女がそう呼んでいると伴侶は盗聴で知っている。
そして、二人は監視員でもあった。
だが、魔女は『なんだかやけに動きの良い補佐官だなー』となんとなく思うだけで、全く気にも留めていない。
仮に監視役だと言われても『仕事に支障をきたさないなら気にしないよ』と言うだけだろう。
×
監視員である二人は、顔も知らない監視員長副官の相手だからと、互いに監視員だと認識した上で協力して『魔女』を視ていた。(まさか副官の相手だとは夢にも思うまい。)
ともかく。危険な行動を起こさないか、誘拐されないか、等を見張る重要な役だ。
それに監視員は王やその関連人物の息がかかった者なので、仮に魔女がいなくなっても仕事が回る様に様々な采配がされている。
それを知ってかしらでか、魔女は二人に一般人では知り得ない知識を沢山授けてくれた。
補佐官1には医療技術や野戦等で使える薬草とそうで無い薬草の知識を、補佐官2には医療行為に適した場所や魔術とおまじないなどの知識だ。
変なものも混じっているが、『魔女』の伝える知識なだけあって、非常に有用なものが多かった。
一度、「何故、知識を授けて下さるのですか」と問うた時
「だってほら。定年はまだ先だろうけど、わたしは『魔女』だし。いつお仕事出来なくなるかも分からないから」
と、あっけらかんとした顔で言われたのだ。




