その頃の彼らの話5。
「なんで今、腕輪を壊したの」
砕けた聖剣を見つめ、その3は問う。
一瞬、男の目の色が常磐色に戻った気がした。
「主の任意で使える様に、です」
そう男が答えるも、その3の身体を縛る呪いは男の力である。
だから、任意に見せかけるだけの演技に使うんだろうなと、何となく思う。それと、あの妙な情緒は力の影響かな、とも冷静に分析する。
「ね、拐われる僕が言うのもなんだけどさ」
「御同行して頂く、の間違いでは」
縛られたままでその3が口を開けば、その3を拾い上げつつ男は指摘をした。
「……あくまでもその格好で行くんだ」
まあいいけど、とその3は小さくぼやく。拾い上げられ、まるで荷物の様に脇に抱えられた。体重が胸骨の辺りに掛かっており、少し気に入らない。
「良くわかんないけど。あんまり、その力は使わないほうがいいんじゃない?」
どうにか身体を捩り、男の顔に視線を向ける。
あの赤黒い色はなんだか嫌な感じがするし、目の色を変えるなど酷く恐ろしい事だからだ。そして、男に動揺の色が全く無かった事から、承知の上なのだと理解する。
「…………此方の都合ですので」
僅かに遅れた男の反応に、その3は改める気がないやつだとすぐに悟った。
「もしかして。『他人が口を挟むな』って、思ってる?」
身体が疲れたので、そのまま脱力してみる。
「友人の大切な人なんだから、少しくらいは気にかける可能性があるって事。理解した方がいいんじゃない?」
視線の先では、未だに眠ったままのその1が見えた。
「ところでさ。『勇者様』は、いつ起きるの」
それと、縛られた黒い服の集団達はどうするのだろう。
「邪魔されたくないので、彼は私共が居なくなった後に目覚めさせます」
問うと、丁寧に答えてくれた。やはり根は真面目なんだろうかと、その3は思考を飛ばす。
「あの人達は回収しないの」
そう問うた時、男は心底興味なさそうな顔をした。
「えぇ。鈍持ちの勇者に遅れを取る程度の者等、あのお方には不要でしょうから」
「手紙書く時間ある?」
試しで聞いてみる。あまり焦った様子が見られなかったからだ。
「……御自由に。半刻以内で済ませて下さいまし」
逡巡した後、男はその3を地面に置き、腕の拘束を緩めた。序でに外れた関節も治してくれた。
そして「術式も魔道具も魔導機も使わせませんが」と牽制しつつ、一切も魔力を感じさせない筆記用具を差し出す。
「ねぇ。用が済んだ後の僕を、この場所に置いて行ってくれないかな」
手紙を書く前に、その3は男を見た。
「何故、私に頼むのです」
心底嫌そうに男は端正な顔を歪める。
「せっかく従ってあげるんだから、そのくらいの融通利かせてくれてもいいでしょ」
そう、強気に言い切ってみせた。
「……まあ、良いでしょう。返す者が私だった成らば、約束致します」
男は溜息を吐く。
それから、その3は簡単にその1への手紙を書いた。用事が済んだら恐らくまたこの場所で会えるだろう事、その時自分がどうなっているか分からない事、その1が気を付けるべき事、地雷や爆弾系の女子等の見分け方、等が主な内容だ。
手紙をその1の服に入れた後、二人は姿を消した。




