その頃の彼らの話2。
「なんだお前ら」
音も気配も殆ど感じさせずに現れた黒い服の集団に、その1は腰に下げた得物に手を添えた。
人間にしてはやけに強い悪意を感じるので、只者ではないだろう。まるで、魔獣のようだった。
「ちょっと。いきなり喧嘩腰は駄目でしょ」
とは言いつつ、その3もいつでも魔術が使えるように腕輪型の杖をそっと起動させる。
「……ええと、何か僕達に用ですか」
その3が言いながら近付くと、黒い服の集団は何も答えず捕縛の魔術式を発動させた。
「っと、危ないなぁ」
難なく避け、その3は顔をしかめる。その合間に黒い服の集団は二人を囲むように移動し始めた。
「……会話は無理そうだぞ」
「そうだね。……あんまり、そういうの得意じゃないんだけどな」
周囲を警戒しながら、その1とその3は確認し合う。
「……狙われているのはお前だな」
「うん。君なんか眼中に無いみたい」
黒い服の者達はその3にのみ、杖も意識も向けている。
「……チッ気に入らねぇな」
自分だけが無視されている状況に、その1は表情を歪めた。『居ても居なくても同じ』だと言われるそれが、その1を心底苛立たせた。
×
少しの緊張状態から、焦れたらしい黒い服の集団の一人が動き出す。
「はっ!」
打ち出された麻痺の魔術式を、その1が素早く抜いた得物で容易に弾き飛ばす。
その得物は木刀だった。
材料は樫の木のように硬く身の締まった木で、形状は刀によく似ている。だが魔術式や錬金術等で、ただの木刀より丈夫だ。
木刀で弾いたそれに、周囲は動揺したように感じた。
「ハッ、こんな形だがこれでも俺は『勇者』だぞ」
木刀の峰で自身の肩をトントン軽く叩き、煽ってみせる。
「テメェ等みてぇな、得体の知れない馬の骨なんざに負ける訳無ぇし、無視されて良い存在でも無ぇだろ」
「わーお、勇者とは思えない言葉」
特に最後の自己主張の強さ、とその3は軽口を叩いた。
「余裕ぶってんな。お前は俺の側から離れるなよ」
「はいはい」
×
そしてその1は、襲い掛かってきた黒い服の集団の、最後の一人を木刀で薙ぎ払う。
「……なんだったんだ、こいつら」
「さぁ?」
全員を、魔術の通じない十字教製の縄で繋いだ。その後口に布と縄を噛ませ、手を組ませて頭の後ろで動かないよう縛る。相手が全員魔術を使ったので、魔術が使えないよう重めの魔術使用封印の札をそれぞれの喉と腕に貼り付ける。
「……新しく札貰っといて良かったね」
貰ったの全部使っちゃったけど、とその3は安堵の息を吐いた。
ただの魔術師なら縄で縛る程度で済むのだが、この襲ってきた集団はやけに魔術の使用が上手かったのだ。
「おや。其れで最後の札でしたか」
急に現れた気配に、二人は身体を強張らせる。
顔を上げると、目の前に黒いローブの男が居た。




