その頃の彼らの話。
魔女に『その1』『その3』と内心で呼ばれていた二人は、学生時代に住んでいた国とは遠く離れた国に来ていた。
今までに沢山の国を訪れ、沢山の国の文化や歴史を見ている。訪れる国は特に決めておらず、困っている噂を聞くだとか宛なく歩いて辿り着いた場所など、そういうてきとうさでやっていた。
外国へ行っても、魔術式や魔道具の影響か、言葉は自動的に翻訳されて二人が理解できる言葉になっている。
また、その1の『勇者補正』かは知らないが、魔術式や道具が使えずとも、その1には言葉が理解できるし、相手に伝える事もできていた。
「ねぇ、『勇者様』」
いつものように慈善活動(例えば木に登って降りれなくなった動物を助けたり、本当に親からはぐれた子供を保護する等)を行なった帰り道、その3はその1に話しかけた。
「だからもうそれで呼ぶなって何度も言ってるだろ。というか頑なだしお前がそれで呼ぶから皆んなから『勇者様』って呼ばれてるんだが」
振り返るその1は、少し伸びた焦茶色の髪を頭の下あたりで雑に縛った髪型になっていた。その方が髪をツンツンに立てるより髪をセットするのも楽だろう。
「いいじゃん減るもんじゃないし」
返すその3は、麦藁色の髪をゆるく編んで片方に垂らしている。これもセットが楽だからである。
「俺の精神的な何かが削れるんだが」
眉間にしわを寄せたその1にその3は整った顔を少々歪めた。
「もう何十年前の話だと思ってんの。引きずり過ぎでしょ」
女々しいねぇ、と肩を竦めるその3に、その1は顔をしかめる。
なんとなく恥ずかしい気持ちが湧き上がってしょうがないのだとその1はいうが、「だからだよ」と、その3は返した。
「お前な……」
肩を落とすが、随分前からそうなのでどうせ変わらないんだろうとその1は思っている。
「というかお前、俺と一緒に旅に出なくてもよかったんじゃないか?」
「今更何言ってるの?」
問い掛けるその1に、その3は眉を寄せた。もう、数十年は一緒に旅をしている。
「と言うかね。君、他方に関する悪意に疎いんだよ。あと、色々にも」
「えっそうなのか?」
「そうだよ。絶対に女難の相の、星の下に生まれてる」
女難の相ってなんだよと言い返しながらも、その1は強くは否定しなかった。
「関わってくる女子が大抵変なやつだし、なんか爆弾というか地雷とか抱えてるんだよ?」
「そうなのか……」
思えば、所謂ツンデレ系や、やたら世話焼きな子、生意気な年下などの創作としてのフィルターというか耐性があったから、あまり気にしていなかったが、よくよく考えてみると人間としては距離感がおかしいような気がしてくる。
初対面で他人に暴言を吐くとか、すごく距離を詰めるとか、煽るとか、どう考えても常識が無い。
「僕嫌だよ、目を離してる合間に知り合いが爆弾地雷のハーレム築いてるとか」
君はとにかく人間にはモテるから、とその3が注意を促す。
「……今更なんだが」
「なに?」
「こんなに一緒に旅しといて、お前の中での分類まだ知り合いなのか?」
「んー……そうだね」
「そうか……」
せめて友人くらいにはなりたかった。
「まあ、それはともかく」
「『ともかく』?!」
その1にとっては割と大事な内容をさらりと流され、その3は訊く。
「次の依頼はどうする? そろそろ別の国にでも行く?」
「……そうだな」
と、二人がこれからの事を話し合おうとした時、数名の黒い衣装の者が現れた。




