『熱の穢れ』と。
『何よ、もう』
巡る星空の下、うんざりだとばかりに声を上げた。
『こんな姿になるなんて、思いもしなかったわ』
それは、文言の歪みで生まれた『熱』。
意志が芽生えてしまった『熱』は、供給されていたはずの魔力の供給が減り、姿を失いそうになり随分と弱り果ててしまった。
おまけに、以前、人間擬きに喰い千切られた場所は戻らないし、時折、傷が己を消さんばかりに拡がってじくじくと痛むのだ。
人間にも精霊にも成れない出来損ないの癖に、此方を喰おうとしているそれが、非常に腹立たしい。
『最後の、悪あがきよ』
存在が消えるなら、これ以上ひどくなる事もない。だから、なんとしてでも存在を維持するためにも労を惜しまない。
そうして、偶然にも暁色の髪の人間に出会った。
人間は『熱の穢れ』とは混ざらない魂を持っていた。異世界の記憶の殻を纏った、生まれ直しの魂。
『あなた、使いやすそうね』
驚く顔の人間に、千切れた腕を伸ばして触れる。
『しばらく、匿ってね』
そう言いつつも、どうせ隙間からは出られないので、やるのは力の一部を渡すだけ。
そうして、いつでも接触ができるよう一部を溶かして混ぜた。
×
それから。
『熱の穢れ』は人間には文言を元に戻すように指示を行ったり、世界の真実を伝えたりした。
『奇跡を剥がせば、この世界にある奇妙な約束も契約もなくなる』と、『そうすれば、あなたも王になれる』と。
無論、それは事実ではあるけれど、一番は隙間から出る為の助言であった。
やがて、人間は自身の周囲に心の底から忠誠を誓って、人間に賛同する者だけを集め始める。
その中に少々怪しいからと信じきっていない者も居るらしいが、その助言は役に立つからと側に置いているという。
ともかく、人間の集める者達は随分と魔力が穢れて悪意のあるものばかりで、『熱の穢れ』にとっては非常にやりやすかった。
×
彼は優秀だった。
まるで生まれ直したかのように、同年代の子供達と比べ精神は随分と大人びていた。
そして、この世のものではない知識を複数、有していた。恐らく、転生者なのだろう。
だから、彼は選ばれなかった。
転生者は、王族でも王位を継いでいけなかったのだから。
——それが、一番の間違いだったのだろうか。
彼は願う。実力のある者が上に立つ世界を。
彼は望む。自身が最上に立つことを。
彼は欲する。数多の人からの賞賛を。
故に彼は楔を地に放つ。
世界を破壊し再構築するのだと。
新たな世界で最上に立つ為に。
彼は知らない。
世界の理を破壊する事の意味を。
いつか、彼は後悔するのだろうか。




