とある秘め事の話。
簡易的に言えば、二名の意見は一致していた。『奇跡を剥がしてくれ』と。
そして片方は『手段は厭わない』。片や『生き物達を傷付けぬように』と。随分と難しいことを言ってくれる。
それに、ものを頼むならある程度の手法や手段を明かしてくれと、言いたい。
だが、そう主張したところ『言ったところで、やるのはあなただし』と返される。『ヒントくらいは見つけやすくしてあげる』だそうだ。
その上、奇跡の剥がし方については、自分達にもいまいちわからないのだと言われる。
二名曰く、『気付いたらこうなっていた』のだと。世界が少し変わったのも、想定以上に世界が奇跡で溢れているのも全て、気付いた時にはそうだった、と。
つまり。世界が平面になった事について、あの二名は関わっていない。
ならば、一体誰が世界を平面にしたのか。
それは兎も角。
似たような要求を別方向からされるのは少々面倒である。作業の規模も含めて、準備にも余計な手間が掛かってしまう。
生憎、二名は顔見知りで要求の根本は同じだった。なので、二名共に顔を突き合わせての話し合いを提案する。
結果、後日に屋敷で話をすることになった。
妻が仕事に出て家にいない日だ。
×
「一先ず。お二人の要求をもう一度示して下さいませんか」
妻である魔女のお気に入りの茶を式神に用意させ、話し合いを始める。
「『奇跡』を剥がす、そのお手伝いをして欲しい」
そう『黒い人』は答えた。視線をそっと『おばあちゃん』へ向けると、上品に、だがしっかりと力強く頷いている。
「では次に、絶対に譲れない事を提示して頂きましょうか」
促すように『おばあちゃん』へ視線を向けると、
「……わたくしは、あの子を含む全ての命が余分に失われない事です」
そうはっきりと告げ、
「んー、失敗すると大変な事になるから、やるなら無駄なく完璧に、ね」
続けて『黒い人』も同様に答えた。
「……『無駄に命を散らさず、確実に成功させよ』と。違いは有りませんね?」
悪魔は確認を取る。合ってる、と声が揃ったので問題は無いだろう。
「其れで、具体的な手法は分からない、ですか」
二名の要求は、内容はきちんと定まっている。だが、実現させる具体案が無い。
計画としてはかなり杜撰な状況であった。
だから、『それを侵さない成らば他の手段には目を瞑る』と約束させた。
ほぼ内容の丸投げを許す代わりに、手伝える範囲は彼らのルールを破らない程度になら手伝ってもらう、という約束も。
「それって『呪う猫』、あなただけが有利な条件じゃない?」
『黒い人』は問い掛けた。それには咎める感情はない。ただ天気の話題を振って聴いただけ、の様なそんな気軽さだった。
「……貴方方が態々、此の様にして私を頼ると言う事は私の様な者で無いと出来ないからでしょう。成らば、多少の融通ぐらいは利かせてもよろしいのでは」
「凡人、化け物、魔術師の内の何が必要かはわかりませんが」と呟くと『黒い人』は少々残念なものを見る表情をした。
「……わたくしは、あの子や命が不用意に蹂躙されず、考えられる可能性の中で最も安全で無事でいられるなら、良いですよ。代わりに、手法や諸々の確認や接触は行いますが」
少し間を空けて『おばあちゃん』は告げる。
「一番は全ての命が一切も損なわず侵されず安心できる状態ですが。……難しい事くらいは、理解しています」
それを受け
「なるべく早く、効率的に……ってのが欲しいけれど。まあ、うまい具合に擦り合わせて」
と『黒い人』も悪魔に云う。
「得意でしょ? そういうの」
予定のすり合わせとか、と期待の篭った視線をもらってしまった。
「…………好き好んで得意とした訳では無いのですが」
悪魔は視線をやや逸らし、声を低くして呟く。
「必要があった為に、出来る様に成っただけで御座います」
周囲が予定を考えずにあれこれを進めるから、だ。
「『命の息吹』には教えないの?」
姿が見えないけど、と『黒い人』は屋敷に一瞬視線を巡らせ問うた。
「駄目です。彼女は奇跡を使います故。……まあ、奇跡よりも運命の力のように思えますが」
『おばあちゃん』を見ながら悪魔は答える。
「そうですね。あの子には、知らせない方が良いかも知れません」
口が軽いから、と『おばあちゃん』は頷いた。




