星のお祭りの後始末。
「——大丈夫か?」
声を掛けられ、は、と意識を取り戻す。
顔を少し上げると、朱殷色の髪の男が見ていた。
「……失礼致しました。少し、考え事を」
新しく獲得した力をどう活用すべきか、と。
謝罪をすると「まあ、お前も人間だからそういう事はあるだろう」と、何故か愉快そうに笑う。
「もう一度言おう」
男は真剣な声色になった。
「少し、俺の弟の様子がおかしい。お前は見るのが上手いだろ。だから暫くの間、見ていてくれないか」
それは頼みであり、命令であった。指定したその者を監視をせよ、と。
目の前の男の弟、というと王弟である。
目の前の男も王の弟だが、頼まれた対象は更に歳の若い者だ。若い、とは言っても魔女の年齢に近いくらいである。
王には弟が三名おり、目の前の男は王のすぐ下。尚且つ、王を陰で守る盾たる存在であり、国の秩序を保つ監視員の長。
そして頼まれた対象は更に下の、双子の上の方だ。
双子の下の方、つまり末の者は軍部で指揮官をしているらしい。
「奇怪しい、とは」
問いつつ、二番目の王弟が何をしているのか全く知らない事に、思い至る。書庫等で本を読み耽っているだとか、街に降り遊び呆けている話は稀に聞くのだが。
「あー……彼奴は以前から転生者らしき言動をしていてな」
非常に言いにくそうな様子で、男は頭を掻く。
「『世界は平面などでは無い』『奇跡など、剥がして見せよう』と」
おかしな話だろう、と男は苦笑混じりに零した。
世界の殆どが信じる平たい世界と巡らぬ星々を疑う存在。それは転生者と転移者である。
転生者の魂を持つ王族等、かなり珍しい。だが、全く居なかった訳では無いのかと、ある法律を思い出す。
「最近、不遜にも『自分こそが王に相応しい』と言い初めてな」
とある法律とは、『転生者は王及び当主になってはならない』という旨のものだ。
「左様で」
相槌を打ちながら、法を変える程の何かをしでかさねば無理だろう、と思考した。それに、既に王が王に成っているならば手遅れではないのか。
「……お前が言いたい事も理解は出来る。『通常では無理だろう』と」
男は神妙な顔で、低く呟いた。
「俺の知らない知識を用いて、何かしでかそうとしている」
目の前の男が知らない知識、とは即ち転生者の転生前の世界やこの世界の神代以前の知識の事である。
「お前なら、どうにかできるのではないのか? 最近、調べているだろう。俺の知らない知識について」
言われて『知られていたか』という思いと、『確かに自分が適任だろう』という理解をした。
殆どの者が信じない異世界の知識にある程度の理解を示し、こちらの世界の知識が豊富な者等、そう居ないからだ。
その上、監視員になっている者と言うなら、更に数が減る。
×
悪魔は、傲慢さを隠そうともせず椅子に座る暁色の髪の男に、頭を垂れ跪坐する。
専属の魔術師に就いた、という体で。
事前に式神等を使い、その男の知識はある程度把握した。丁度、悪魔自身の欲していた知識に近いものを所持し、悪魔の目的と近い事を計画していた事を知る。
『嗚呼、丁度良い。上手い具合に便乗しよう』と、悪魔は赤黒い虹彩の目を細めて密かに笑った。決して誰にも知られてはいけない計画を、胸の内に秘める。
悪魔が『黒い人』依り得た力は、魂の色を変える力だった。いや、『穢れ』を取り入れた彼だからこそ、獲得出来た力というべきか。
「お前の名は、何と言う」
魔王のような男が問う。
「私の名は」
そして跪坐く男は、付けられる筈だった名を、名乗った。




