星のお祭りの後始末。
夫の切り離された腕が魔力で塞がった事、は『できるようになっただけ』という主張で一応は納得したが、飽くまでも一応である。
後日、実は全く納得していなかった魔女は、同僚の男に魔力で怪我が治せるかを問い掛けた。場所は同僚の執務室だ。
「怪我ぁ? 出来たら魔術師が医者も兼任やってるだろ。あんたの役職は何だ、飾りか?」
面倒そうな、と言うよりは怪訝な様子で同僚の男は答えた。
実際、その言葉に尽きる。
魔力で怪我の修復が出来ないから、魔女や薬猿の者等が薬の研究を行うし、怪我の場合によっては医者が物理的に縫合を施したり切除したりするのだ。
「そっかー」
神妙な顔で頷く魔女に、同僚の男は魔女の周囲で魔力で怪我を修復した者がいたのだろうと、推察する。どうせ、『呪猫の悪魔』と呼ばれる魔女の伴侶が原因だろう。
通常ならば無理だ、と一笑に付すのだが魔女の伴侶は呪猫の次席、つまりこの国ではかなり上位の実力者である。おまけに呪猫の次席の職業は、狂った様に魔力や魔術、魔術式等の研究を行う宮廷魔術師。
可能性は無くはないのだ。
そして同僚の男は、宮廷魔術師をしている自身の妻から、とある悩みの相談をされていた事を思い出す。
上司がなんだかヤバそう、だったか。詳しくは聞いていないが。その上司は件の呪猫の次席。つまり魔女の伴侶である。
「……一旦、別れた期間のことを旦那と話し合うのはどうだ」
魔女の能天気さには色々と考えさせられるが、その伴侶側の高過ぎる隠蔽力にも問題があるのではと、思っていた。
「あの人と話し合い? 何で?」
魔女に問い返され少々話が飛躍した、と少々後悔する。
「いや、ほら。五年ぶりくらいに再会したんだろ。積もる話とかないのか?」
どうにか話を逸らした。
「んー。昨日、結構話したかなぁ」
ふふー、とにこにこ笑顔の上機嫌になったのでまあ昨日はお楽しみだったんかなと話題の選択ミスに内心で舌打ちをする。思わぬところで何やら砂糖を食わされた気分であった。
「楽しい話じゃなくて、もう少し踏み込んだ話とかしてみろよ。どう過ごしていたとか。ある意味、あんた自身が知っておくべきじゃないのか」
一般人より夢見がちな魂を持つ魔女の事だ。それくらいしなければ、また同じ事をする。
「……それともう一つ、面白い『目』の術を教えてやるよ」
そして隠す奴は、決定的な証拠を突き付けなければ絶対にはぐらかす。(自身もそうなので、)だから証拠発見の手助けをしてやる事にした。あと、魔女にもう少し現実を見て欲しい。どうも旦那が絡むとポンコツになるからだ。
「面白い『目』?」
何かな、と魔女は興味を示した。
「魔術や魔法とか、魔力で弄った箇所が見える目だ」
教えるものは、同僚の男が持つ『見通す目』の能力のうちの一つだ。
まあ随分とアホらしい動きがするんだが。と言いつつ、数分で伝えたのだった。




