星のお祭りの帰り。
「早う、其のお漏らし遊ばされる魔力を仕舞って下さいまし」
腕が問題なく機能するか、手を開いたり閉じたりして確認しつつ、悪魔は魔女に声を掛ける。
「おもらしあそばされるって何?」
「魔獣が集まって来よる」
彼女の問いには答えず、彼は周囲の気配を探っていた。
普段より全身から魔力がだだ漏れの魔女は魔獣を引き寄せやすい。その上、今日は星の祭りの帰りだからか、普段より余計に魔力が漏れているのだという。
「其れに、貴女の魔力が非常に勿体無い」
それは彼の意見である。実際、かなり多量の魔力が溢れているが、彼女はその分魔力の生成速度が早いので、今のところは魔力不足にはならない。
「どうやるの?」
首を傾げ、魔女は眉尻を下げた。今まで、生まれてから一度も魔力の放出器官から魔力を止めた事など無いのだ。
「こう、身を引き締めるような」
身、と言うより気を引き締めるように、放出器官の魔力を減らして放出器官を閉じる。基本的にはそういうイメージでやるらしい。
「ん゛っ!」
「……息は止めなくてもよろしいのですよ?」
顔を真っ赤にして、くしゃくしゃにする魔女へ、悪魔は苦笑混じりに告げる。というか、そんないきむような反応をされても困る。
「むずかしいよ」
息を止めた一瞬だけ、魔力の放出が止まったように感じられた。だが、自宅まで距離があるのでその間止めてもらうのも酷だろう。
彼女は魔力を一度も止めたことがない、且つ、魔力が気化し易い性質なのでぴったり閉じなければ漏れる魔力量も変わらない。
なので、それもそうか、と小さく息を吐き、彼は別の提案をする。
「仕様がありませぬ。私の魔力で塞いで差し上げる」
「えっ、わわっ?! ちょっとま「待ちませぬ」ひゃーっ!」
結局の所、魔女の魔力が漏れなければ良い。だから、悪魔自身の魔力で覆って漏れないようにすれば放出器官を閉じなくとも良いのだ。
……こちらが本題だった可能性がある。
「うひー」
日焼け止めや化粧水かのように、魔女の体に悪魔の魔力が塗られてゆく。
その間、「ふひゃひゃ」と笑っていたり「ひー」と叫んだりと、相性の良い魔力を全身の放出器官に塗られてもそんな反応が出るところ、全く色気のない小娘であった。(普通ならば、もう少し恥ずかしがったり羞恥や刺激に身を震わせたりするものだ。)
「身体中がじんじんする」
顔を赤らめ、ぷるぷると身を震わせる魔女に、悪魔は手を差し出す。
「さ、御手を」「ん゛ー」
変な顔をしながら、彼女は手を重ねた。
一体どの様な心境なのだろうと彼は内心疑問に思っている。肌に魔力を塗り込んだ時の他、口付けで魔力を流し込んだ時も似たような顔をするからだ。
実際のところ、湧き上がる色々な感情を堪えた結果なのだが、彼が知る由も無い。
そうこうしているうちに、二人は(一応は、)無事に屋敷まで辿り着いた。
「えへへへへー」
「ほれ、しっかりして下さいまし」
手を繋いでいた魔女は半固形物のように、糸の切れた人形のようになっていた。途中からは横抱きにして運んでいた。
「んー」
そして、星の祭りの最中よりも上機嫌な様子だった。「ふんふふー」と、よく聞けば鼻唄まで唄っている。
「……はぁ」
魔力に酔った状態に逆戻りだな、と思いつつ、まああとは二人でゆっくりするだけなので問題は無いだろう、と悪魔は深く気にしていなかった。




