星のお祭りの帰り。
「——————っ!」
刹那。
魔女を丸呑みにした魔獣が、ドン、と鈍い音と共に上に浮いていた。
悪魔自身がその腹を蹴り上げていた事に、彼は数秒遅れて気付く。
「……」
湧き上がった怒りに思わず、身体が動いてしまったらしい。咄嗟だったが、魔女を吐き出させる為に必要な行動である。
魔獣を蹴った感触から、魔女だけは蹴っていない事を悟り安堵した。
「わ、」
直後に魔獣から、ぬるん、と魔女が吐き出される。体内には何も入っていなかったのか、魔女単体だけが綺麗に出た。そのまま身体を捻り脚を変え、勢いのままに魔獣を横に蹴り飛ばす。
彼女を魔術で引き寄せ、自身の後ろまで下がらせた。そして浄化装置を魔女へ放り、彼女に防御の結界を張る。
即座に動いた所為で、魔獣の種類や形状の目視と確認が後手に回った。そのまま、魔獣の観察に入る。
蹴り飛ばされた魔獣は数本の木を圧し折って横たわっていた。どうやら気絶しているらしい。
見たところ、ただの肉食獣を模したものであり、特殊な能力は持ち合わせていないように見える。
「……びっくりした」
浄化装置を抱え、結界の中で魔女は呟いた。
「驚いたのは、此方です」
蹴り飛ばした魔獣を見据えたまま、少々表情を歪め苛立った様子で悪魔は言い返す。
「貴女は其処で大人しくして居りなさい」
「ん」
魔女の返事を聞いて、即座に悪魔は魔獣に近付きその四肢の筋を魔力で補強した手で切り裂いた。
それから口に轡を噛ませ頸を掴む。そこから紐状にした魔力を刺し込み脊髄から脳、腰椎の方へとそれぞれ伸ばし、神経を破壊した。その際に反射で魔獣の体がガクガクと震えて暴れ出すが、悪魔はしっかりと掴んだまま気にせず続ける。
先に四肢の筋を切り轡を付けたのは、神経締めの際の被害を抑える為だ。
そして神経締めをする理由は、魔獣の高い生命力故に、先に神経を潰さないと生き返って暴れるからである。
動かなくなった事を確認し、魔女の方を振り返った。
「此れで問題は」
無い、と言い掛けたところで突然魔獣が動き出し悪魔の右腕から先を切り落とす。執念で一部だけ機能を回復したらしい。
「……チッ」
血液よりも先に魔力の溢れ出す切り口に、表情を少し歪めた。即座に左手を振るい
「『告、“散”』」
振り返らず、短く魔術を発動させる。
左手を握り締める動作と共に魔獣の頭と胴が爆散し、今度こそ動かなくなった。
「……問題は、消滅致しました」
にこ、と悪魔は魔女に微笑んで見せる。
目玉と心臓から魔石を取り出し材料にしようと残していたが台無しになった。
「手が」
顔を蒼くする魔女に
「大丈夫です。直ぐ直ります故」
と悪魔は自身の魔力に塗れた右腕を拾い上げ、少し表面を綺麗にしてから断面同士をくっ付ける。
「待って、ちゃんと縫って治さないと!」
「不要です」
慌てる彼女に、気にする必要は無いと彼は告げた。
腕を持ち繋がりが歪にならないよう微調整を行う。そして見る間に魔力同士が合わさりそれと共に傷が塞がった。
「……それ、どうやったの」
驚き、どう言う方法なのだと彼に問うが
「唯、出来るように成っただけです」
と出来て当然かのように悪魔は言う。
「そう、なんだ」
怪訝な顔でゆっくり頷き、魔女はどうにか納得した。




