星のお祭り。
星の祭りは、悪魔にとってただ、楽し気な彼女の様子を眺めて彼女が霧散しないよう注意を払うだけの場である。
子供達が居た時は更に、注意を向ける場所は多かった。
だから、見張る対象が魔女ただ一人になった今は、少しばかり余裕がある。序でに言えば、魔女の身内である『おばあちゃん』が居るので、大抵は大丈夫だろうと少し考えていた。
改めて、悪魔は周囲に注意を向ける。
ただの植物や地面が所々が発光し、柔らかい風が吹き続け、はしゃぐ妖精達の声が聞こえた。
非常に強い魔力に満ちた空間だ。
「…………」
そして。それと似た場所に、一度触れた事があると、思い出す。
夜の山の中、魔女とは別の者を探していた時の事を。
それは確か、覚醒者を取り戻す際に触れた空間だったか。
あの時は魔力が吸われていたが、それは空間を移動し維持するために補完的に消費されていた感覚があった。
転生者が開いた空間のその奥。そこと魔力の雰囲気がなんとなく似ている気がした。
『雰囲気』とか『なんとなく』とか『気がした』とか、実に自分らしくなく彼女のような考察だと思う。
「(……嗚呼、そうだった)」
すっかり忘れていたが、覚醒者は魔女の代わりに連れて行かれたのだったか。
ならば、いつの日か再び彼女がそちらに連れて行かれる可能性があるのではないか?
「そろそろ、時間だから帰りなさい」
思考したところで、『おばあちゃん』が声を掛けた。
「えー、いつもよりちょっと早くない?」
やや不満そうに口を尖らせ、魔女は首を傾げる。
「いいえ。このくらいがちょうど良いのです」
柔らかい笑みを浮かべ『おばあちゃん』はそう言い切った。
「だそうですよ。帰りましょうね」
「はーい」
悪魔の差し出した手に、魔女は手を重ねる。
「おばーちゃん! またね!」
大人気なく大きく手を振る魔女に『おばあちゃん』は小さく手を振り微笑んだ。
×
星祭りの会場を後にし、森の中を歩く。
深夜の森の中は、輝きに満ち溢れていた行きとは違い、非常に暗い。
「……ちゃんと着いて来ておりますよね?」
しっかりと手を組んで繋いでいるくせに、悪魔はすぐ斜め後ろの存在に声を掛けた。
「もちろんだよ!」
元気に彼女は答える。序でに魔力も漏れているので、間違う事無く魔女であった。
「えへへ。きみの手ー」
言いながら、魔女は悪魔の手をにぎにぎとして遊んでいる。
「……ですから、手で遊ばないで下さいまし」
少し、擽ったいのだ。
そして、
「わ゛っ!」
と彼女の叫び声がし、急いて振り返れば頭から魔獣に食われる魔女の姿があった。
「………………………………………………は?」
正しく言えば丸呑みである。彼が見たのは彼女の足が魔獣の口に消えたところだ。




