星のお祭り。
美しい満天の星の下、妖精達が楽し気な音楽と共に舞い踊り、山や森の木々、花々が輝きだす。
それが『星祭り』に対する、普通の人間の五感で感じ取れる事象であった。
それでは、普通の人間でない場合。
例えば、魔女や悪魔のように全身が魔力の放出器官であったり、魂が人間でなかったり。保有魔力量が著しく多い場合、人成らざる知り合いが居た場合では?
答えは、全身の放出器官から入り込んだ空気中の魔力で魔力酔いを起こし、更なる幻覚を見る。そして、怪しげな光や音の刺激でまともに動けなくなる。
また、空気中の特殊な魔力のお陰で体内の魔力量が倍増してしまい、魔力保有量過多で身体が限界を迎える。
魔女と悪魔の場合、知り合いのお陰で生きて家まで帰れる。
だが対処できる知り合いがいなければ、魔力の異界方向への暴走で肉体という殻を脱ぎ捨ててしまい、魂だけの存在、つまり妖精や精霊の類いになってしまうのだ。
魔女と悪魔の二人は、肉体が綻びる前に『おばあちゃん』から加護をこっそり授けられており無事である。悪魔の方は魔力が無理矢理増加させられているとすぐさま気付き、対処方を試行していたところだった。因みに魔女は一切も気付いていない。
先程から彼女がやけに上機嫌だったのは、魔力酔いと解放感故のものかもしれない。
こうして悪魔は魔女や『おばあちゃん』と知り合いであったこと、対処できたことに内心で感謝し安堵するのだった。
×
「ふへへー」
にこにこ笑顔で笑みを浮かべてばかりの魔女に、悪魔はそっと普段通りに彼女の幼名を囁く。名を呼べば正気に戻るだろうかと、思考したのである。
「ん。なぁにー?」
へにゃ、と更に大変な間抜け面で柔らかく笑った。
「…………」
幼名では正気に戻らないらしい、と舌打ちをして次に本当の名を呼んでみる。
「うん。なぁに?」
同じ顔をしただけだった。
「ふひゃ」
では痛みだとどうだ、とその柔い両頬を彼は摘んで引っ張る。
「いひひー」
「……」
仕方無く、そっと両手を外した。
それから彼女の顔の輪郭を擦るように、するりと悪魔は右手の指先を滑らせて魔女の顎を軽く指で掬う。
「ん?」
ぱちくり、と可愛らしく瞬きをする彼女を抱き締めるように左腕をその背中側に回し、そっと魔女の柳腰に添えた。
身長差の所為で魔女は少し体が反っており、悪魔は随分と前屈みだ。そのまま迫るように、彼女に顔を近付け
「……処で。あの五年間、随分と面白可笑しく、楽しく過ごしていらした様ですねェ」
その腰を、指先で優しく撫でる。
「私は随分と不幸だったというのに」
なるべく威圧しないよう声色を優しく、
「謝罪は未だですか」
悪意をたっぷりと込めて低く、囁いた。
序でに、にこ、と優しく微笑んでみせる。
「……おや」
悪魔が見下ろすと、彼女は人形のように固まっていた。
次第に血の気が引いているのか、さぁっと顔は青褪め震え出す。
「私を不幸にして得た幸せの味は如何でしたか、と問うておるのですが。御返事は?」
少し、悪魔は首を傾けた。途端に、彼女の丸い目から涙が溢れ始めた。




