星のお祭り。
「分かりました。適切な箇所で彼女を『締める』。それが宜しいのですね」
確認するように、悪魔は『おばあちゃん』に問い掛ける。
「はい。でも、しばらくしたら忘れて同じ事をしでかすこともあるので、根気強く続けてくださいね」
まるで、子供の教育……と言うよりも動物の調教のような方法であった。
それでもなお、微塵でも彼女が離れる可能性を想起させる行動はあまりやりたくないのが彼の心境だ。
本音を言えば、彼女が逃げる隙も無くぎっちりと縛ってやりたい。だが、そうすれば次に彼女がどのような行動に移るかなんて、火を見るより明らかな筈。
『おばあちゃん』の言わんとしている事を思考していると
「あの子はあなたを選んだのだから、あなたももう少し彼女にあなたの本当のわがままを言っても良いのですよ」
そう、『おばあちゃん』は告げた。
その時、悪魔はふと、打算や計算、儀式すらも絡まない本心からの我儘を自身が口にする機会は極端に少ないらしい事に気付く。……幼い頃からの、周囲の環境に依る癖のようなものだ。
「それと。逃げ出したなら、大抵は何がなんでも捕まえてください」
何故か、『おばあちゃん』は当然の事を言う。
「『逃げたら捕まる』のだと、覚えてもらうのです」
調教の話らしい。
「探す事に時間が掛からなければ『追いかけてくる事を待っていた』、捕まえる感覚が擦り抜けたのなら『少し放っておいて欲しい』と見分ける事ができます」
そのような見分け方があるとは悪魔は知らなかった。今まで、魔女と悪魔は互いに仕事や子供の世話をしてばかりで、二人の時間があまり取れていなかったからだ。
「『どうせ捕まえてくれる』と慢心させると戻って来なくなるので、適切に探さないふりをするのも良いかもしれませんね」
それを聞いた時に、微妙に面倒なところが小娘らしいと少し感心していた。
「めんどくさいところはちゃんと指摘してあげるのもいいですね」
だそうだ。改善するかは彼女の心境次第。
「ねー、なに話してるの?」
ぽやぽやした顔で、上機嫌な魔女が悪魔の方へ近寄る。
「ふふ。貴女の事ですよ」
目を細め、彼は笑みを見せた。強ち間違いではない。
「えへー」
自身が話題であるそれが嬉しかったのか彼女は笑みを見せた。へにゃ、と、すっかり緩み切った顔である。
その顔を眺めながら。
「……」
そういえば『謝罪の言葉を貰っていないな』と、ふと思い出す。
向こうから出て行った癖に、帰って真っ先に告げた言葉は『忘れ物したー!』だし。
帰宅直後の、彼女のあの引き攣った表情は何だと言いたいし、彼女がこちらに対して罪悪感を抱いていたのも知っている。
ある意味で、これは彼女を締める良い機会かもしれない。
数日は過ぎているので『なんで今更なのーっ!』と慌てる姿が目に浮かぶ。今は祭の最中なので、自宅に帰った後でも良いか、と、悪魔は視線を少し逸らした。
少々、彼も緩んでいるのかもしれない。




