星のお祭りの話。
「ね。行こっか」
ある夏の夜。
魔女は悪戯っぽく笑い、悪魔の手を引いた。
「何処に、でしょうか」
一先ず、悪魔は彼女が何処へ行きたいのか問う。
「お祭り」
あっさりと、魔女は答えた。
「星の、お祭りだよ」
×
『星の祭り』。
それは、魔女曰く「とーっても、綺麗なお祭り!」だそうだ。
「キラキラで、ふわーってして、なんだか楽しくなるの」
と、他には曖昧な言葉しかもらえないので、煌びやかで楽しい祭り、らしいことしかわからない。
星の祭りは、古くから名前を持つような、自然豊かな山などで行われる、特別な催しものだ。
古い文献等を見て行くと、森林や草原、高原、花畑、水辺、川縁、岩山の頂上や洞窟、海の底等でも行われるらしい記述があった。
簡単に言えば妖精等のための祭りで、魂が人間でない人が巻き込まれると十中八九、行方不明になる。
魂が人間でない人は神隠しの反対事象のような『神現し』で現れた人だ。
×
今回行くのは、『魔女のための星祭り』。
魔女曰く「わたしの生まれたお祝いなんだって。おばあちゃんがいってた」だそうだ。
魂が妖精の者のために開催されているのだろうか。
行きの道。
「ひさしぶりに行くから、すっごく楽しみなんだー」
と、非常に浮足立っている様子で、魔女は夫の顔を見上げた。現在、手指をしっかりと絡ませた状態、つまり恋人繋ぎで手を繋ぎ合っている。
「……お一人の時には行かなかったので?」
心底不思議そうに、悪魔は妻の顔を見下ろした。
たっぷりと自由な時間があっただろうし、魔女の為のものの他にも星祭りはあった筈だった。
「だ、だって。……きみと仲直りしてないのに行けるわけないじゃん」
視線を逸らし口を尖らせ、魔女は拗ねたような小さな声色で答える。よく見ると、耳の先が赤い。
「……其れは」
「絶対に二人で行く、って。約束したもんね」
にひ、と魔女は笑って見せた。
「すっごくキラキラしてるでしょー」
山に向かう道だというのに、所々が眩く煌めいている。随分と目に付く煌めきなので、星祭りと全く縁のない者にはどう見えるのか少々気になった。
「そうですね。斯様にゆっくりと見るのは久しぶりです」
確か、魔女にお願いされて子供達を連れて行った所までは覚えている。しっかりと妖精や精霊の対策をした状態だったので、特に危険は無かった。
「えへへへー」
お互いに久しぶりだという事実に、魔女は顔を緩める。
「(……気分が、高揚しているようですね)」
酒を飲んだ後のように、にこにこと笑ってばかりで大変に機嫌が良さそうである。
殊更に、魔女やその周囲に対して気を引き締めねばなるまい。成人の儀を終えた者でも、油断した魂は妖精や精霊によく狙われるからだ。




