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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
二人の生活

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 ┣5年目の冬。


「わ、ねこちゃんだー!」


 今回魔女が貰った祝福は、柳緑色の毛並みに琥珀色の目のねこのぬいぐるみ。三男に良く似た姿をしていた。


「あ、白衣着てる」


それと火水風土の四元素と太陽と月のような、小さな装飾も付いている。

 錬金術師を目指しているその姿に相応しい、そんな装飾だった。


「……来年は、どうなるのかなぁ」


 はた、と思った事を呟く。

 この五年間、祝福は子供達の姿を模したねこのぬいぐるみと、愛の日によく見られる、擦り潰した木の実を使った菓子だった。

 模す対象が無くなったのだから、次の祝福の予想ができない。……そもそも、成人してからも祝福をもらっているこの状況が奇怪(おか)しいのだが、慣れてしまったので来年も『いい子』にしていたら来るのだろうと魔女は思っているのだった。


×


 年を越して『愛の日』が過ぎて少しした頃に、とある報告を聞いた。


 近々、息子が結婚するらしい。


 その話を聞いて、魔女は驚愕と久しぶりの喜びを得る。

 地方の貴族と婚約のやり取りをしていた長男は魔女が家出をする前に既に結婚していたので、此度(こたび)結婚するのは次男の方だ。


 相手は、息子の補佐をしていた監視員の者だった。


「補佐の子って確か……綺麗な目の子だよね」


 と、魔女は同僚の男に問う。


「そうだな。ま、ある意味であんたが繋いだ縁だからそこは誇っていいと思うぜ」


頷き、同僚の男も少々嬉しそうに口元を緩めていた。

 実は同僚の男自身も、魔女の息子には目立たない程度には目を掛けていて、色々と心配をしていたのだ。目下の心配が一つ減った。


「いつぐらいに結婚するのかなぁ」


 と、魔女はわくわく、そわそわする。


「来年か今年の夏ぐらいだって言ってた気がするな」


 秋は虚霊祭や年度初めの手続きが面倒で忙しく、冬は吹雪や配給、魔獣討伐で軍部は忙しい。

 春は少々縁起がよろしくない。

 故に、目出度(めでた)く最も清い夏に挙式を挙げるつもりらしい。

 それと、次男は相当にモテており色々と厄介な支持者(ファン)が多いのでひっそりと家族や親しい友人らを招く程度の、小規模なものを行うらしい。


「……なんで、親のわたしよりも情報詳しく知ってるの」


 魔女は不満そうに口を尖らせる。だが、それには答えず


「序でに伝言だ。『式までには仲直りして下さい』だってよ。別居状態の両親呼べる訳ねーしなぁ?」


と笑った。目は笑っていなかった。一番重要度の高い目下の悩みである。一向に解決に向かわない。


「う゛っ!」


 指摘され、くしゃ、と魔女は顔をしかめる。


「ちゃんとなんとかするよ……………………たぶん」


答えれば、胡乱(うろん)な目で見られた。


×


「あっ、ワスレモノシタ」


 それから数日後。

 仮眠室だった部屋で、唐突に魔女は呟いた。


 忘れ物、した。


 忘れ物の内容は特別な抽出や調合に使う為の道具だ。それは屋敷内に残していった荷物の中にある。


 今すぐ必要、では無い。だが、息子の結婚祝いにあげようと思っていた薬品のプレゼントに必要なものだ。長男の結婚式の時にはまだ薬品自体があったので、作らなかった。

 滅多に使わないものだから、『今は必要ないかな』と道具を屋敷に置いていったのだ。


「わ……忘れ物しちゃったなら、仕方ないよね?」


 ソーダソーダ、シカタナイナー。と、酷い棒読みで魔女は頷いた。


 そして「シカタナイナー」と言い続けて季節を越した。びびりまくって決心が付かなかったのだ。


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