┣4年目の冬。
寒さが深まった頃、魔女は物憂げに溜息を吐く。
「(……どうやって、帰ろうかな)」
こんなに長引くとは、思ってもみなかった。
正直な感想はそれに尽きる。
×
「わ! ねこちゃんのぬいぐるみ……と、わんちゃんのぬいぐるみ?」
祝福を開け、魔女は首を傾げた。
祝福で届いたぬいぐるみは、銀灰色の毛並みに浅縹色の目をした犬のぬいぐるみと、濡羽色の毛並みに山吹色の目をした猫のぬいぐるみだったのだ。
「なんで二つ?」
首を傾げながらも、「かわいいから、まあいっか」と嬉しそうに、両方を飾る。
そして片方の、犬のぬいぐるみを眺める。
「……確かに、あの子は猫っていうより犬みたいだもんね」
うんうんと頷き、わかってるねー、と納得していた。
養子である次男は礼儀正しく和かであるが、本性はかなり攻撃的だ。
なので犬、というよりは狼のような雰囲気で、猟犬とか猛犬とかそこいらのような感じなのだ。
「……それと、」
もう片方の、猫のぬいぐるみに視線を向ける。
随分と可愛らしい見た目のぬいぐるみだ。
「…………なんだか、どこかでみたことあるな、この雰囲気」
じ、と数分見つめ。
「あっ! 思い出した!」
ぴこん! と閃いた。
「確か……副官というか、補佐官をしてた子!」
次男が魔獣殲滅部隊の一団の団長をしていた時、一時期だけ団長の補佐官をしていた子が、そのような色合いをしていた、筈だ。
次男が「非常に優秀な子なんだよ」と、珍しく嬉しそうに零していたのを思い出す。
魔女も、その子がやけにしなやかで無駄や隙のない動きをしていたのを覚えていた。
そして、その子が居なくなってから、彼が少々荒れ始めたのだったか、と、思う。
「どこに行ったんだろ、あの子」
最近、施設内で全く見かけないのだ。異動にしたって、送別会らしきものがあったり、仮に送別会がなくとも、少しくらいは『どこへ行った』とか色々の噂話がある筈なのに。
「……全く無い、ってのもちょっと不自然じゃないかな」
と、小さく呟いた。
×
「ま、俺に言われても正直色々と困るんだけどな」
魔女に問われ、同僚の男は乾いた笑みを浮かべた。
「色々とって事は、何か知ってる? もしかして」
じ、と見つめると、同僚の男はさらに困ったように笑う。
「……なんでそんな所ばっか聡いのかねぇ。ホント」
人好きのする笑みを浮かべたままで、はぁ、と溜息を吐いた。
「教えてくれる?」
魔女が問うと
「いいや。絶対に無理だな」
と答える。
「これは俺の仕事に関わる内容だからな。いくら友人として頼まれたって答えてやらねぇ」
つまり、人事の仕事なので情報開示はできない、という事らしい。
「……そっか」
それならば仕方ないか、と魔女は肩を落とした。




