┣4年目の秋。
「どうしたらいいと思う、おっきいねこちゃん」
肩を落として問い掛ければ、それは心底どうでも良さそうに顔を逸らした。どうでも良さそう、というよりは呆れているような雰囲気ではあった。
だが、その尾は不機嫌そうに、ぱたん、と地面を叩いている。
「あれ、なんだか不機嫌? ねこちゃん」
頭や首の後ろを撫でても、尾の動きは変わらなかった。
薄く寒い風が、魔女の頬を撫でる。
「そういえばだけど、ねこちゃん」
撫でながら魔女はそれを見下ろした。深い緑色の目と視線が合った。『何か用事でも?』と言いた気な雰囲気だったので、そのまま言葉を続ける。
「しっぽ太いね」
言えば、『なんだそんな事か』と、ふん、と鼻で軽くあしらわれてしまった。
その大きい獣は、魔女に頭や首、背中や胴体は撫でさせてくれる。だが、尻尾の付け根やお腹を撫でさせてくれない。
魔女は何気に猫や動物を撫でる事がやたらと上手く、大抵の動物を無力化する特技があった。大抵の魔獣は魔女が撫でる前に彼女を丸呑みにしてくるので、それを発揮するタイミングはない。
しなやかで長い尾を再度眺める。
「うん、やっぱりなんだか太いね」
触ろうとすれば、ひょい、と尾は逃げた。
「なんで触らせてくれないの」
口を尖らせて、魔女は肩を落とす。
×
「最近、たまに大きなねこちゃんが現れるだけどねー」
嬉しそうに話す魔女に、同僚の男は言い放つ。
「その話は何度も聞いた。つーかそれ魔獣じゃねーの」
体高が人間の腰に届く大きさの動物など、通常なら山奥や森の中でしか見ない。
その大きさの動物が街中に出るというなら、それはどこかの魔術師が召喚する獣か、からどこからか脱走してしまったものか、魔獣しか居ない。
召喚獣は召喚主からそう離れられないし脱走の話も聞かないので、魔獣ぐらいしか心当たりがないのだ。
「おめめは緑色だから魔獣じゃないよ! ……たぶん」
そう、魔女は獣の安全性を訴える。魔獣の目は赤黒い色だ。例外は今まで記録には無い。
「……毛並みは」
目の色が違うならほぼ100%魔獣ではないのだが、一応聞いておく。
「黒っぽいよ。あ、あの人の髪の色に似てる気がする」
通常、魔獣の毛並は艶のない黒。近い色はしているらしい。
それはともかく。
「……」
魔女の口から聞いた、『おっきいねこちゃん』の特徴がどうも彼女の伴侶に非常によく似ていることに気気付いてしまった。
「(……それと最近、なんだか当人じゃない魔力の気配がするんだよなぁ)」
気付かない方が良かったかもしれない。
同僚の男は頭を抱えたくなった。




