┣2年目の冬。
離れてから2度目の冬が来た。
なんとなく、今までの冬よりも寒い気がする。
「寒いねー」
真っ白に塗りつぶされて行く外に、魔女は独り言を呟いた。
今年やってきた祝福は、濃い藍色の身体に赤銅色の目の、ねこのぬいぐるみ。キラキラした星のアクセサリーを首に付けていた。それと、鳥の小さなぬいぐるみを抱えている。
まるで長女のような、涼やかで可愛らしいぬいぐるみだった。
長男風のねこのぬいぐるみの横に置いている。
「(来年はあの子かなぁー)」
と、次女の事を思い浮かべた。
「…………」
そして、口を噤む。
来年の冬は、あの人と一緒にいられるだろうか。
あの人とは無論、伴侶の事である。まだ何も彼からの連絡は届いていない。
「(…………意外と、保つんだなぁ)」
と、よくわからない感心をする。
「……」
なんとなく、『向こうが折れてくれるだろう』『探してくれるだろう』と、思い込んでいた。連絡が一切来ない事が酷く不思議だった。
「(ま、まあ。あの人の方からお願いされたら、帰らなくもない……かな)」
今の研究が終わってからだけれど。
謎のツンデレらしきものを無駄なところで発揮する。
×
「ところでよぉ『軍医中将』殿。……離婚、しないのか」
ある日、同僚の男から質問を投げ掛けられた。
「離婚?! しないよ!」
驚きで思わず席から勢いよく立ち上がる。拍子に椅子が倒れたので、慌てつつもゆっくり立て直した。
「へぇ?」
魔女の返答に、同僚の男は片眉を上げる。『不思議な事言うもんだなぁ』と言いたげである。
「するわけないじゃん」
憤慨した様子で、魔女はやや強めの語気で言い返した。
なんでそんな酷い事が言えるのだろう。
頬を少し膨らませ考えたところで、魔女は自分自身の様子を少し冷静に見直す。
そういえば、自分が家出をしているのだったか。
「離婚しないって理由は」
そのまま、同僚の男は問う。
「本当に、離れ離れになっちゃうでしょ」
そんなに酷いこと言わないでよ、と、魔女は椅子に座り直しつつ答えた。
つまり、物理的には離れたいけど縁を切りたくない、ということか?
「贅沢なやつだな……」
返答に呆れて同僚の男は肩をすくめた。
実は、魔女は『結婚したのだから別居したところで縁は千切れないだろう』と、非常に楽観的に考えている。
物理的に離れたところで、自分達の縁はそのままだろうと。
……それが、された相手や周囲の方からどう思われるかも考えずにいる。
ある意味で、『魔女』の魂が妖精である事の価値観の違いの弊害だった。




