┣1年目の冬。
寒い冬が来た。
秋の終わりから年が明けるまでは、音も無く、静かに忍び寄る。
だが、年が明けてから少し経つと、段々とその無慈悲で荒々しい様相を見せるのだ。
「わ! プレゼントもらっちゃった!」
聖人の祝日の朝、魔女は枕元に現れた品物を掲げて、幸せそうに笑った。
何を隠そう、この小娘、未だに聖人の祝福をもらっているのである。
成人の儀を終えて成人してからも、毎年必ず枕元に祝福が届いていた。
何故、祝福をくれるのかはよくわかっていないが、きっとそういう気まぐれなのだろう、と魔女は思っている。
子供達がまだ家にいた時、子供達と魔女は祝福をもらっていた。
夫が祝福をもらっていたかは知らないが、喜ぶ魔女や子供達の様子を見て、少し嬉しそうにしていたのを覚えている。
丁寧で綺麗な包装をそっと剥がし、いそいそと開封していく。
「きれーだねー」
毎年、非常に繊細で美しい包装なので実は保管していた。だから、なるべく破けないように、細心の注意を払う。
「ねこちゃんぬいぐるみ! ちっちゃい!」
中身を確認し、目を輝かせた。
ぬいぐるみは手の平に乗るくらいの大きさで、柑子色の身体に翡翠色の目をしている。
まるで自分の息子のような色合いだと、少し懐かしく感じた。
それと、『愛の日』でよく見かける菓子の缶詰。
なんだか懐かしい気配がして、少し目を伏せる。
「……いい子、だったのかな」
吐息のような声で小さく呟き、魔女は首を傾げた。
だって、夫の下から離れて、自身の持ち場とはいえ軍部に居座っている。
彼を傷付けた自覚はあるからだ。
プレゼントが来なかったらどうしよう、と前日少しどきどきしていたが問題はなかった、或いは許容範囲内だったのかもしれない。
そして、『祝福をもらった』と同僚の男に世間話がてらに報告する。
「は? ……あー、いや。俺も貰ってるよ」
そう、同僚は笑みを見せた。
ほんの一瞬、真顔になったが魔女は気付かない。
それから少しして、年越しの日が訪れる。
年越しの儀は魔女には全く関係がない。何故なら、『魔女』は一般の貴族達には恐れられ、安全の為、宮廷の催物への出入りが禁止されているからだ。
×
真っ白に景色を塗り潰す吹雪を、頬杖の姿勢で眺める。
そろそろ、春を呼ぶ季節だ。
軍部では物資の支給や護衛の仕事が入るため、非常に忙しい。
だが、魔女は精霊に襲われやすい体質なので、寧ろ『軍部で大人しくしてろ』と牽制されていた。だから、少し歯痒く思いながらも室内で大人しくしている。
そして、春の前の儀式を思い出す。
「(春の前……あの人は大変なことになってたけど)」
頬杖のまま、片手間に思い付いた簡単な薬品のメモを書き記す。
確か、『春来の儀』とやらを行うのだったか。
今回も、きっと大変な事になるのだろう。一応、それの後処理の薬は置いてきたので、きっと大丈夫。
新しい季節を夢見て、魔女は目を閉じた。
※聖人を信じる=サンタを信じる




