次男の話。
例えば、次男。
銀灰色の髪に浅縹色の目を持つ彼は、魔女と悪魔の血を引いていない男の子だ。
だが、魔女と悪魔の持ち得る知識の大半を吸収し実践出来る、とんでもない努力家だった。
魔女と悪魔、その子達とは別系統の整った精悍な顔立ちで、女性に優しく男性にはやや厳しい。
ついでに言うと、無能や喧しいだけの貴族やカモになりそうな対象には男女共に優しく、基本的に物腰が柔らかいお陰で『王子様のようだ』と呼ばれていた。
「……まあ、あれは面白……愉快……失礼。実に愉快な話でしたね」
思い出し、悪魔はさも愉快そうに目を細める。
「おーい、言い直せてないよー? わたししかいないからって、素直になり過ぎるのもどうかと思うよー?」
困ったように魔女は眉尻を下げ、少し口を尖らせた。
前述した通り、次男は周囲に優しい八方美人だ。
だから、そんな次男が気に入らない者から、強く八つ当たりされることも少なくない。
故に、決闘の申込みをされた。
「えっと、決闘が禁止になるきっかけ……だっけ?」
魔女は思い出すために視線を少々上に向け、夫に視線を向ける。
「未だ、禁止されておりませぬ。決闘の法が少々変更された程度で」
やはり興味が薄い事柄だからか、詳細を忘れているようだ、と嘆息して悪魔は妻に正解を述べた。
「そうだっけ」
決闘の申込みで、手袋を決闘の相手の側に叩きつける風習がある。
そして、それの侮辱を込めた行為が、相手の身体に当てる事。さらに手袋を顔に当てたり、手袋で頬を叩いたりする事が最上の侮辱となる行為だった。
次男は軍部の育成機関に在籍中、顔に手袋を叩き付けられた、らしい。
侮辱的に決闘を申し込まれた時は、同じように手袋を返して良い事になっている。名誉回復の為だ。
だから、次男は同じように手袋を顔に叩きつけた。
しかし。
その衝撃で相手は吹っ飛び、あっさりと決闘を棄権したのだという。
結果、『手袋は顔に投げてはいけない』と言う法ができた。
「そういえば、きみも決闘してた気がするんだけど、なんでだっけ」
ちら、と魔女は悪魔を見た。
「扨。……数十年も昔の話で御座います故、覚えておりませんねぇ」
にこ、と微笑み悪魔は返す。
どうせなら、そのまま魔女には未来永劫忘れておいてもらいたい。他の男の記憶など思い出す価値も無いと、悪魔は考えているからだ。
そしてもう一つ。
次男は馴染まなくて流動性の低い魔力を持っていたが、『魔女』の作った特別な薬で、少し魔力を柔らかくして魔力が体内で詰まり難くなった。
お陰で魔力の詰まりによる熱もあまり出ないようになり、随分と健康になったのだ。
そして、その特別な薬は『戦争を終わらせた薬』を改良したものである。
魔女のトラウマとなっていた薬で、人が救えた。その事実が、魔女の気持ちを軽くさせた。




