二人の話。
「さみしい?」
すっかりと、結婚当初と比べて静かになった。
「いいえ、全く。子は親元より旅立つもの。私には貴女さえ居れば……而まあ。多少の息災の知らせが有れば充分かと」
そう答え、彼は少し視線を逸らす。
「ふーん。わたしはさみしいなぁー」
ぽふ、と彼に寄り掛かり、魔女は言葉を零した。
「だって、きみと結婚してから二人きりだった期間はそんなになかったし」
ふと顔を上げると、珍しくも彼が目を逸らしたままで、何かを思考していた。
「……どうしたの?」
少しその顔を覗き込みながら問い掛ける。
「きちんと、私は『親』に成れていたか気掛かりで」
そう、『親』に対しあまり良い記憶の無い彼は答えた。
「できてたんじゃない?」
魔女は返す。
「わたしが見てる限りは、充分に十分だったとおもうけれど。何を心配しているの?」
「親というよりは、教師のような関係性だった気がしていて」
実際、彼は普段は仕事の関係上あまり家にいなかったし、休日は研究や色々の関係で、部屋に篭りっぱなしだった。
「でもさ、時間を作って子供達に魔術式教えたり、色々体術とか教えてたでしょ。子供達、楽しそうだったよ」
思い出せば出すほど、彼は十分に父親になれていた、と魔女は思う。実際のところ、魔女には父親どころか両親もいないので、感覚のようなものだが。
「あとご飯も作ってくれたし、本当にたまにだけどお出かけについて行ってくれたでしょ。だから、大丈夫だよ」
慰めるように、そっと彼の背中を撫でる。
「……まあ。それを言うと、貴女はある意味で母親らしくない様子でしたね」
そして、彼はそう呟いた。
「え、そんなこと言う?」
自分には慰めさせておいて、と魔女は口を尖らせる。
「貴女、子供達に薬草と薬学の知識、獲物の捌き方、急所の突き方を教えていたではないですか。普通の母はしないのでは」
一般的な母親像とは違っただろう、ということらしい。
「そうかなー おばあちゃんは教えてくれたけど」
「……然様ですか」
魔女にとっての母親に値する存在がそうだったのならば、強くは否定に出られない。
「子供たちには、悪いことをしちゃったかな」
ぽつり、と魔女は溜息混じりに呟いた。
「……」
それを流し目で見て、彼は考えるように視線を横に動かす。
「『魔女と悪魔の子』とか、『相性結婚で生まれた子』だって言われちゃっただろうから」
先の戦争で色々あった『魔女』と『悪魔』の子供。それと、政府の制度によって、身分や家柄も関係なく魔力の相性だけで選ばれる結婚制度の『相性結婚』。
どちらにせよ、ただの一般的な家族よりも色々な視線や言いがかり等があっただろう。
「そうですねぇ……」
それを考え、
「大丈夫なのでは」
悪魔は存外、淡白な様子で返した。
「うん、わたしもそう思った」
子供達がそれぞれでやらかした事を思えば、噂なんて大丈夫だったのかも、と少し楽観的に考えてしまうのだった。




