第四子が生まれる話。
魔女と悪魔、その子供達は北部の不可侵領域の森に呼ばれた。長男と長女は二度目だが、意識のある状態の次女と預かった子は初めてである。
次女は興味深げに、預かった子は警戒している様子で、周囲を見回していた。
「よく来た……って割と増えたね」
少し目を見開き、迎えに来た『黒い人』は呟く。
「でしょー。すごいにぎやか……うん、賑やかなんだよー」
悪魔に抱えられた魔女は、にこにこと、心底嬉しそうな笑顔だ。
「しっかり者、のんびりさん、お転婆、物静か……まあ、人数は多いけどあんまり騒がしくない感じね」
『黒い人』は頷き、口元をどうにか笑みの形にした。
「それと……ふぅん。前の子は獣を従えなかったの」
そして次女を見て、
「折角、祝福したのだけれど」
悪魔に視線を向ける。
「……従える才能を有しておりますが、『契約は今は結ばない』と当人が言うもので」
にこ、と悪魔は愛想笑いを返した。
「なるほど。今回用意された獣はお気に召さなかったみたい?」
頷き、一人納得する。
「六つになった時にまた、儀式をして」
そして、そう告げた。
「そうすれば、きっと納得してくれる」
「何しているのですか。もう用意しているのですから、早く」
と、『黒い人』の住処の方から声がする。
「あ、おばーちゃん!」
視線を向けると、見覚えのある白い髪が見え、魔女は心底嬉しそうな声を上げた。
「ごめん、今から行く」
と、『黒い人』は『おばあちゃん』に声をかけ、魔女と悪魔、その子供達の方を見た。
「『折角だから手伝いたい』って。さぁ、あなた達も」
それから魔女の分娩があり、『黒い人』が取り上げた子を悪魔が丁寧に洗う。
生まれた子は、柳緑色の髪に琥珀色の目を持つ子供だった。
初めの子以外、ほとんど髪や目の色が似ていない。
ちなみに『おばあちゃん』は、子供達の世話をしていた。それはともかく。
こうして、二人の間に、第四子が生まれた。
×
「四人……いや、五人かぁ」
ベッドの上で、感慨深気に魔女は溜息を零した。
それは、悪い気持ちは一切無く、嬉しさや何か込み上げるものがあって、胸がいっぱいになって溢れた息だ。
預かった子は、何かと不便があるので、一時的に二人の養子として戸籍に入れてある。年齢的に次男となり、同い年だが次女の主張の関係で次女の弟。当人もそれを受け入れている。
「……経済的には、無理ではありませぬが」
軍医の魔女と、宮廷魔術師の悪魔の二人分の所得はそれなりに高い。
「序でに言いますと、補助金が毎月、初等部を出る迄付きます故。其処迄は、負担ではないかと」
人数が増えるほど、補助金は増える。
「きみが大丈夫なら、いいの」
魔女は幸せそうに、緩んだ笑みを浮かべた。
別に、金銭的な工面の心配はあまりしていなかった。最悪、不可侵領域の森に行けば食うに困らないから。
魔女が笑ったのは、夫が『自分との時間が減る』等、そう言った内容で恨み言を口にしなかったからだ。
直接血の繋がりのない子を受け入れてくれると知った時には、驚き過ぎて逆に失礼だと苦言を呈された。
まだ油断はできないだろうけれど、こんな日々のままで、子供達全員が無事に成人を迎えられたら良いと、魔女は願う。




