表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
魔女と悪魔の結婚生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

244/600

研修が終わる話。


 それから、魔女は恐るべき速度で研修を終わらせた。()()()()()()()()()()()()()3年という最速だ。

 運良く、色々をタイミング良く引き当てた結果である。

 また、悪意を()って引き伸ばそうとした者もいたようだが、魔女に起こった()()()()()によってそれが出来ずじまいとなった。


「よし、帰ろう」


 確かに薬猿での研修も勉強も楽しかったし、いつのまにか薬猿の当主らしい人物とも薬学の話で盛り上がり、「先に教えてくれたら、いつでも来ていいよ」と言われた。

 にこにこ円満でのお別れである。

 ついでに言うと、薬猿当主は学生時代の修学旅行で会った偉そうな人じゃなかった。優しそうな、それでいて気が強そうな女性だった。


 それと、魔女が王都へ帰る準備をしていたところで、友人の男が魔女の元へ現れた。


「……甥っ子を、預かってもらえないだろうか」


そして、そんな頼まれごとをされる。


「え、なんで?」


 心底不思議そうに、魔女は問うた。それなりに誠実で常識的な友人の男がするには、珍しいタイプの頼みだ。


「……暫く、家に戻れそうになくてね」


 少し気落ちした声色で、友人の男は答える。


「ふぅん?」


甥っ子の話は色々と聞いていたので、実家で育児放棄されていること、子供にしてはやけにしっかりした子であることは知っていた。


「元々、あまり家に戻れなかったのだが。今度は、一年の間に何度戻れるかも分からない」


 友人の男は、辺鄙な田舎や過疎地によく(おもむ)く流浪の医者をしている。この数年は医療技術向上のために薬猿に留まっていたが、そろそろ旅に出るらしい。


「なるほど」


友人の男が赴く場所は、基本的に交通の便がよろしくない。だから、もしものことがあった時に手遅れにならないよう、見てほしいのだという。


「手伝いの者も付けてはいたが、一人でそれなりに出来る子だから、迷惑はあまりかけないと思う」


 友人の男は申し訳なさそうに言った。


「ふーん。いくつくらいだっけ」


しっかりした子なのはわかったが、年齢を聞いていない。


「まだ、ほんの4、5歳なんだ」


 可愛い子なんだ、と少し表情を柔らかくした。


「4、5歳?!」


そのくらいの歳、というと次女と同い年くらいだろうか。


「君は、研修が終わったら王都内に戻るんだろう」


 真剣な顔をし、友人の男は問う。


「そうだね」


魔女が頷くのを確認し、


「必要なものはこちらでできうる限りは用意する。だから、あの子に居場所を与えてやってくれないか」


真っ直ぐに、見つめた。


「居場所……」


 なんとなく、夫と境遇が似ている気がして、放っておけなかった。だから。


「ん。分かった」


 魔女は、友人の男の甥を預かることを決めた。


×


「……ということで。もう一人、家族が増えたよー」


 そう、屋敷の玄関に立つ魔女は、後ろに立つ男の子を、出迎えてくれた子供達に紹介する。興味津々に見る子供達に対して、男の子は丁寧に会釈した。

 男の子は少し気まずそうであるが、無表情で、銀灰色の髪と水縹色の目も相まって、まるで置き物のようだ。


「そろそろ、屋敷の内へ入っては如何(いかが)ですか」


 魔女の旅行の荷物や土産類を持ち、悪魔は魔女に声をかける。


「貴女は()()なのですから、体が冷えてしまってはいけません」


「ん、そうだった」


 大きなお腹を(さす)り、魔女は、はにかむ。

 薬術に長く引き留められなかった()()()()()である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ