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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
魔女と悪魔の結婚生活

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228/600

葬式の話。


 悪魔と呪猫当主の両親は、特に言及することもないような、一般的な呪猫の上位貴族だった。

 父親が上位貴族で、母親が前当主の3番目の子。ただそれだけ。


 両親共に家の伝統的に霊を従え、躾に厳しい人だった。

 本家の者だった母親は父の家へ嫁入りし、有力貴族からぎりぎり当主選考範囲内の外分家へと成る。

 途中、父親の家が不幸で没落し母が先に産んだ子がとんでもない才能を持っていた。それから、唆されて子を本家に売り、少しして再び才能を持つ子を求めてまた子を成した。

 その子も()()()()に能力を持ち合わせていたものの、先の子ほど真新しくもないと、直ぐに興味を失せられた。


 それから少しして。

 ()()()()()()()()()が起こり、2人目の子は霊を従えられない欠陥品。つまり『出来損ない』となった。それから、両親は本格的に子への興味を失い放置するようになる。


 元々、呪猫の上位貴族達は子の世話は専用の者に任せきりだったので、ただ、世話役を雇わなかっただけだ。

 それから『出来損ない』をそのまま野晒しにして怨霊になられては困ると、魔術師の育成機関へ丸投げして、次は()()()()()()後継ぎをと新しい子を求めるも、それからはさっぱりっだった。


 子が流れるだとか、異形であったとか、色々と不可解なほどに不幸が重なってまともな後継が出来ずにこうして衰弱死したと言う。


×


「……とまあ、其れが私達の両親の話だ」


 呪猫当主はそう言った。伝聞調なのは直接は聞いていないからだという。


「ふぅん」


 魔女はとりあえずで頷く。あまり興味がなかったからだ。


 魔女と悪魔、彼の兄が居るこの場所は彼らが死ぬまで住んでいた屋敷だ。

 一般的な呪猫の上位貴族同様、床が高く壁は少なく戸や建具で部屋を仕切るような、特殊な平たい構造の木造の建物。

 当然のように土足ではなく、板張りの床が歩く度に、ぎぃ、と軋んだ。

 壁がほとんど無いので冬場は寒そうだと思うが、特殊な結界で思いの外、暖かいらしい。


「其れで」


 甘いような死臭と嫌な気配で満たされている屋敷の、奥へと足を運びながら、悪魔は兄へ問う。


「何人、()()()()()()


少し首を傾け考える様な仕草をした後、


「……そうだなぁ。ちゃんと魂を持っていた()()は5度ぐらい、だろうか」


そう答えた。魂を持たなかったものを含めるともう少し増えるらしい。


「然様か」


 悪魔はつまらなそうに返す。別に、悔やんだわけではない。


「まあ。()()()()()()()()()()()10()()()()()()()だろうな」


 と、言いつつ、荒れ放題の庭をそっと指した。


「彼等は、其処に居るとも。……皆、ね」


 釣られて魔女も視線を庭に向けた。何やら樹木らしきものが一つ、やけに綺麗に育っていた。


()れは『風見の木』だ」


 短く答えた。柔らかくしなやかで、呪猫では死者を悼む木、らしい。


×


「貴女は、此方に来なくともよろしいのですよ」


 灰色の衣装を纏った悪魔が、魔女を見下ろした。顔も、同様の布で隠してある。


「そうだなァ。縁を切られて居るから、まあ関係は無い」


それに同意する様に、薄墨色の衣装を纏った悪魔の兄もゆったりと頷いた。同じように、薄墨色の布で顔が覆い隠されている。


「ん……せっかくだから、参加しとく」


答えながら、自分と夫とその兄、それと自分達の子供達2人以外、誰も居ないな、となんとなく思った。


「そう答えると思っていたよ」


 そう、少し笑うような声色がしたと思った直後。魔女とその子供2人も、瞬時に灰色の衣装を身に纏う。目元を隠す灰色の布を、長男は少し気になるようで引っ張った。


「……兎角、此の札を持っておくように」


 と、繊維質な真っ白な紙を受け取る。三角に折られたそれの中には、粉末状のものが入っている。


「…………塩です。異なる場所へ連れて行かれぬよう、(まじな)いが込められておる」


 悪魔が胸元に入れておくよう言ったので、素直に従った。


 そして、荒れた屋敷で静かに葬式が行われる。

 灰色の衣装を纏った悪魔とその兄の2人が、慣れた手付きで淡々と作業をこなしていた。

 兄の方が何やら文言を唱え、後始末を悪魔が行う。魔女と子供達はただそれを見た。


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