第二子が生まれる話。
2人目の子が生まれた。
結婚をしてから5年目の、冬の日の事だ。その日は運良く『愛の日』で、悪魔が春来の儀で宮廷に行く前の出来事だった。
「わぁーっ! かんわいいーねぇー!」
と、魔女は歓声を上げる。産後だというのに疲れた様子は無く、悪魔は安堵した。
第二子を産んだ場所は、第一子と同じく南部の不可侵領域の森だ。
前回と同様に『おばあちゃん』に呼ばれて、強制連行された。
×
「そうでした」
すやすやと眠る魔女、第一子、少し離した場所に第二子の居る部屋から出て、『おばあちゃん』は悪魔に振り返った。
「あなた達が喚んでいる『春の神』ですが……あれは、わたくしの友人の欠片。……それが少し歪められてしまったもの、です」
銀色の目を細めて、少し落ち込んだような様子を見せる。
「だから、治して欲しいんです」
そう言われても、悪魔は『おばあちゃん』の友人の事は知らない。
「何を、するのです。抑々、私に治せるような代物なのですか」
『おばあちゃん』でも治せないようなものを、たかが人間にどうこうできるとは思えなかった。だが、『おばあちゃん』は言葉を続ける。
「難しいことはありません。文言を少し、変えるだけ」
儀式の文言は元々正しいものだったが、伝達して行くにつれて、文言が僅かに変わってしまったのだという。その変化は本当に僅かなものだった。
「そして、あなたのそれは、わたくしの友人でないと安全に取れないみたいです。……だから、いつか会えたら、話をしてあげて」
そう言い『おばあちゃん』は、にこ、と笑う。
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第二子は、濃藍色の髪と赤銅色の目を持って生まれた。
「ねーっ! 見て可愛い! きみによく似た美人さんになるよ絶対!」
そう、心底嬉しそうに魔女は言う。
やはりというか、彼女は第二子に夢中だ。だが悪魔は、その髪の色の濃さと目の色合いを不安に思っていた。
「(暗い……黒と見間違えそうな髪色と、赤味の強く暗い虹彩……)」
まるで、魔獣のような色合いではないか。
黒に近い髪色は少し珍しく、また赤味を帯びた目の色も珍しい。
それはともかく、赤い目の色を持つ者は嫌われやすい。
なぜなら、魔獣と同じ色だからだ。その上、目の色は魂、または魔力の色だ。つまり、『赤い目の者は魔獣と良く似ている』とされ、忌避される。
悪魔自身は、特に色合いに偏見など持ち合わせていないが、周囲がそれを許してくれるだろうか。
初等部に入学し周囲に悪く扱われ、その結果、自身のように周囲を呪うような存在になってほしくない。
それが、とても気掛かりだった。
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それから数ヶ月過ぎて春が来ると、第二子には更に別の不安材料が生まれた。
「ね、この子、全然喋んないの」
そう、魔女が第二子を持ち上げ、悪魔に告げる。
おまけに、あまり動かないのだという。
だが、病院へ行って診察してもらっても、特に異常は無いらしい。
「あ、わたしのともだちが言うには『喉の辺りで魔力が詰まってる』んだって」
だが、喉の辺りで魔力が詰まっていても特に何か生命に影響がある訳でもない。
「……ふむ」
少し考え、悪魔は呟いた。
「…………奴……呪猫当主に、手紙を出してみます。何か解るやも知れませんし」




