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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
魔女と悪魔の結婚生活

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224/600

後始末のお話。


 カツン、と、石の床を打つ音が響く。


 背の高い朱殷色の髪の男が、側に控えた外套で顔を隠した男に告げた。


「……お前の望んだものは、本当にそれでいいのか?」


「お前の功績ならば、もっと別のものを望めたはずだろう」と朱殷色の髪の男は言う。


「……私には、(これ)が一番宜しいのですよ。()()()()()殿()


 呟き、外套で顔を隠した男は左手を真横にすっと静かに動かす。


 魔力の輝きが集まり、手元に『杖』が現れた。薄い手袋に覆われたその手で握ったそれは、


「……いつ見ても、奇妙でいて(おぞ)ましい形をしている」


 監視員長は、(いささ)か顔をしかめる。


 持ち主の身長よりも大分大きく、渾天儀(こんてんぎ)を中心に錫杖(しゃくじょう)天秤(てんびん)を合わせたような形状をしている杖——


——それの()()()()()()()()()()


 四半(90度)回転したそれの形は、柄杓星の形を模した長槍斧(ハルバード)


 長槍斧は対象に突き刺し、殴打し、引き裂き、肉を断つ為の長得物である。そして、形を模した柄杓星は呪猫の術、()()()()で使われる、冥府神を象徴する星だ。


 『世界と知識』を表す渾天儀と、『裁量の平等』を表す天秤、『除厄』を表す錫杖に、『悪意と呪い』を表す刃物と柄杓星。


 二面性を持った杖だった。


「お前の望んだ、『元教皇の処刑』……見届けようか?」


「不要です。貴方も此の仕事を観たい訳では有りますまい」


「……そうだな」


 感情の読めない平坦な声で言われ、監視員長は少し肩をすくめた。


「時間、場所、手順、全てその通りに済ませろ。お前に言う事でもないが」


外套で顔を隠した男へ告げ、(きびす)を返してその場から去る。


×


 シャラ、と高い金属音が鳴った。


「『()()り、『契約を違反した罪』を(すす)ぐ極秘死刑の執行を行う』」


 淡々と文言を唱え、特殊な術式を展開させる。


 目の前には、拘束衣で膝を突く姿に固定された罪人が居た。

 その者は、侵攻してきた国の教皇。

 身分を剥奪された挙句、被害を受けたこの国へ身柄を引き渡された者。


 魔力を使えぬよう、目は潰して黒い布で目隠しをされている。


 魔術を唱えられぬよう喉は焼かれ、舌は抜いてある。


 術式を行使できぬよう手の平は焼け(ただ)れ、指は切り落とされて既に無い。


 手首には小手の様な魔錠が着けられ、固定されている。


 余計な反応をされないように、耳も潰してある。


「……よくも、我が妻の手を穢させよったな」


 聞こえないはずだが、存分に呪詛の籠った言葉に罪人はびくりと身体を強張(こわば)らせた。

 罪人は首を差し出すような姿勢のまま動けず、拘束されてからずっと、ただそこに()()()()()()

 見えずとも聞こえずとも、何かが始まったことだけが唐突に知らされた。


 カツン、と、床から振動が伝わるように音を立てて歩く。

 シャン、と石突きが床を突く度に音が鳴る。


「此れは私怨。是は呪い」


 手順として決められた場所よりゆっくりと歩き、呟いた。


(そして)()()()()()


 それから罪人の真横に立ち、歩みを止める。


「『罪を(すす)ぎ、天に、地に還るが良い』」


 文言を唱え、杖を振り下ろした。


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