吹っ切れた。
「……なんかね、もう過ぎた事だしくよくよしてても仕方ないかもって思った」
旅行を終えた時。
そう、魔女は呟いた。
その顔は諦めや絶望の混ざったものではなく、
「だから、解毒薬作る」
強い決意に満ちたものだ。
それから、魔女は後遺症を患った兵士や魔術師達の為に、魔力放出器官の不調を治す薬を作った。
それには少し伴侶も手伝っていたのだが、材料集め程度に手伝っただけだと彼は膠も無く返す。魔女自らの力で、魔女自身が償いをしたのだと言いたかったのかも知れない。
×
「よう。意外と元気そうで良かったよ」
と、同僚は魔女に声をかけた。
現在、魔女の居る場所は軍部から少しだけ離れた新しい場所だ。そこでは軍人向けの強めの傷薬や身体強化用の薬、補助用の薬や物品を開発している。
分かりやすく言えば、『魔女のために作られた隔離施設』である。
「ん。まあ、おかげさまでね」
ふふん、と魔女は自信たっぷりそうに笑った。
「というか、きみのお仕事は?」
窓辺に現れた同僚に、魔女は少し、首を傾げる。
「『魔女さまを元気づけさせろ』って上もうるせぇんだ」
同僚は溜息混じりに、軽く肩をすくめた。
戦争を終わらせたその勲功を讃えられて、魔女は勲功爵を得た。子爵程度の、上位の貴族や一般的に為政を行う議員貴族にとっては『取るに足らない』と言われる爵位だ。
だが、軍部では大きな意味を持つ。
軍部で勲功爵を持つ者は、かなり優遇されるからだ。簡単に言えば、魔女の出世は約束されたようなもので、最終的には軍医中将になる事が約束された。
魔女自身は、あまり身分に興味は無い。だが身分があることで以前のような目に遭わないで済み、自身の興味がある物の開発や研究ができるようになるのだと聞いて、ありがたく受け取った。
……『古き貴族』の交魚の頭領の一人、通鳥の当主、その伴侶、生兎の有力貴族、聖女……などから色々と圧力があったのだが。
また、薬猿、呪猫の当主からもやんわりと注意が有ったことも、魔女の扱いが変わった要因かもしれない。
それに、魔女が終結兵器を作った経緯を知れば、心優しい死犬の当主や慈悲深い祈羊の当主も難色を示すであろうことは、想像に難くない。
「もちろん、俺個人としても元から元気にさせたい気持ちはある」
友人が落ち込んでいる姿はあんまりみたくないしなぁ、と同僚は言う。
「仮に次戦争になっても、『魔女』が嫌な目に合わないよう取り計らえる地位ももらったしな」
「ふーん。ありがとね」
それを聞いて、魔女はにこ、と笑った。




