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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
魔女と悪魔の結婚生活

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222/600

約束と契約のお話。


 旅行は、手続きや始末の関係で、年が明けて少し経った冬に行われた。


「『愛の日』のプレゼントってやつですよ。あなたのお友達全員からの、友愛のプレゼント」


戸惑う魔女に、後輩の魔術師はそう教えた。


「冬場なんでちょっと寒いでしょうが、その分人は居ませんし、いい景色も見られますよ」


×


「……綺麗だね」


 外に目を向け、魔女は呟いた。

 余計な灯りのない、自然豊かな風景が広がっている。


「ええ。そうですね」


悪魔は同意する。だが、彼女の表情は翳った表情のままだ。


「……」


 眉をひそめ、魔女は小さく溜息を吐いた。


「折角、貴女のご友人方が用意してくださったのですから、楽しみましょう?」


「……でも」


声を掛けるも、魔女は過ぎ去ったそれらに思いを馳せているらしい。


「…………そうですか」


「ちょっと、なに」


「貴女は、私と言うものが側に居ると言うのに、他の事ばかりに目を向ける」


 する、と彼は彼女の手袋をずらす。隙間から入った、悪魔の骨張った長い指が魔女の素肌に触れた。


「そういう、気分じゃ……」


すりすりと肌を合わせられる感覚が、心地よいと感じてしまう。でも、そんな場合じゃない、と魔女は拒否しようとする。


「其れと、もう直ぐ約束の5年目が近いと言うのに、二人目もできておりませんでしょう」


「そ、そんな事言われても」


確かに、そうだった。相性結婚で結ばれてからもう、3年が経つ。初めての子供も、もうじき一歳になる頃合いだ。

 妊娠期間は一年ほどなので、契約を反故(ほご)にしないためにも、そろそろ二人目の事も考えるべき時期だった。


「……『貴女は国を救った』。其れで良いのでは?」


 貴女は悪くないのだと、悪魔は優しく、諭す。後悔して傷付く姿を、これ以上見たくはなかった。


「で、でも……たくさんの人……子供とか、じ、実験に使っちゃったんだよ」


 もう後戻りできない、と魔女は涙を流す。


「ふん。そう成らば、私や他の魔術師、軍兵共の方がもっと、直接的に、人を殺めております」


す、と目を細め、彼は返した。魔女は、彼のような魔術師や軍兵と違い、兵器を造っただけで、直接は手を下していないのだと。


「でも、それは命令だから……」


 だから仕方ないよ、と反射的に魔女は言う。


「そう、『命令だから』。……貴女も、でしょう?」


 言葉尻を捉え、彼女の顎に掬うように()った手で此方を向かせた。


「う……」


眉を寄せ、魔女は言葉を詰まらせる。確かに、魔女自身も、彼と同じだった。


「ですから、貴女が気に病む事等、何処にも有りませぬ」


 それに、自由を好む彼女を閉じ込め、圧をかけて無理矢理作らせたと聞いた。一体誰が、そんな彼女を責められると言うのか。


「……これは、慰安旅行です。貴女を労い、休ませる為の」


「ん……」


 言い聞かせ、彼女の柔い頬を、触れる指先で優しく撫でた。


「もう少し、気を楽になさっても宜しいのです」

「でも、」


むずかしいよ、と彼女は眉尻を下げる。


「……忘れさせて、差し上げようか」

「んむ」


 囁き、彼は口付けた。今度は、拒絶が無い。


「大丈夫です。……例え、世界中が貴女の敵になったとしても」


 普段よりも近いその距離に、魔女は少し不安を感じる。

 髪と同じ紫黒色の長い睫毛に縁取られた、彼の深い緑の虹彩がよく見えた。猫のように縦に避けた瞳孔の奥は、赤黒い色が滲んでいる。


「私はずっと、貴女の味方です」


 そのままで、彼はゆっくり目を細め微笑んだ。吐息が掛かるほどに近いその距離のまま、悪魔は魔女の明るい赤色の目を見つめる。


()の様な手を使ってでも、貴女を助けて差し上げる」


 魔力の影響か、彼女の丸い瞳孔の奥はキラキラと煌めいて綺麗だ。あまり手入れはしていないだろうに、髪と同色の蜜柑色の睫毛は縁を隙間なく、綺麗に縁取っている。


「……嘘だ」


 にんまりと細まる、常盤色の目に魔女は顔をしかめた。彼はいつも、魔女が苦しむ様子を楽しそうに見ている。それに、彼は嘘吐きだ。


「きみはきっと、いつか……わたしと敵対する」


「目的のために、きみは『手段を選ばない』から」そう言うと、悪魔は更に笑みを深くする。……正解、なのかもしれない。


「では『契約』しましょう。『私が、何時(いつ)如何(いか)なる時でも、貴女を助ける』と」


「……『契約』?」


 思いもしない言葉に、珊瑚珠色の目は大きく見開かれる。


「はい。絶対に(たが)える事のできぬ誓いを、私と貴女に」


「なんで、そんなこと」


貴女(妖精)と私は、約束をしました。『これからも、ずっと共に居る』と」


す、と、悪魔は薄い手袋に覆われた手を差し出した。


「そう、だけど」


「ですから。この(精霊)と、契約して下さいまし」


 至極真剣な声に、魔女は息を飲む。


「そうすれば……私と貴女は、ずっと……共に」


離れていても、ずっと一緒に居られるのだと、彼は告げた。助けるために、どこに居ても、すぐに駆け付けられるのだという。


「…………『わたしを、助けて』。『これから、ずっと』」


 大きな手に、そっと自身の手を乗せる。

 真っ直ぐに、彼を見つめた。


「……えぇ。何に変えても、助けて差し上げる」


至極嬉しそうに、彼女の手を握り頷く。

 手の甲に口付け、にんまりと笑った。


「……不穏なのは、嫌だよ」


「ふふ。極力、努力は致しましょう」


 笑う彼に『少し早まったかも』と思ってしまったが、より強く結びついた気がしてなんだか安心した。


心の弱った魔女に契約を持ちかける悪魔……

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