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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
魔女と悪魔の結婚生活

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221/600

慰安旅行のお話。


※名称の変更があります。

 以降、そのままです。


薬術の魔女→魔女


魔術師の男→悪魔

 

「う゛ー」


 相変わらず、彼女は部屋に引きこもっていた。たまに部屋の外や庭にも出るが、屋敷からは出ない。


「……」


 ちら、とその部屋に視線を向けただけで、彼は小さく溜息を吐く。


 よほど、部屋に缶詰めにされたが(こた)えたのだろう。

 いつも、にこにこと笑みを浮かべている。だが、顔は蒼白で、一人になると今のように小さく(うずく)って震えていた。


 下らぬ(いさか)いなど吹っ掛けおって、と敵対国を呪いたくなるそれを堪える。

 あの国は既に、『魔女』の手で壊滅寸前まで追い込まれていたからだ。勝手に追い討ちを掛け、そのせいで魔女が更に恨まれる事など、あってはならない。


 ついでに、自身にも『悪魔(マレーフィコ)』、要は悪を成す者、呪う者などというどうしようもない渾名が付いた。まあそこはどうでも良い。事実、数多の兵士を、魔術と呪いで殺したからだ。


 抱えていた、小さな子を撫でる。

 この子にも、ようやく会えた。戦争の最中では二人共に子に構う事ができず、手伝いの者に任せきりだった。


 柔い頬に触れると、けらけらと笑う。妻にも抱かせてやりたいが、きっと、『手が穢れてしまったから』と、拒むのだろう。


「(殺めた事で穢れる成らば、私の方が……余程)」


 直接手を下して人間を殺めた己の方が、穢れている筈だ。彼女は命令で仕方なく、そして間接的に殺めてしまっただろうが、彼自身は命令だけでなく私利私欲の為に、望んで殺める事も幾度かあった。


 どうすれば、また笑ってくれるだろうか。


×


 静かになった彼女の部屋に、悪魔はそっと音も立てずに入る。


「すぴー」


 寝ているようだ。

 寝息は変わっていないようで、心底安堵した。

 眠る彼女に近付き、そっと枕の下に手を入れる。


 彼女の元には『国を救ってくれた英雄』だと、称賛の声ばかりが届けられた。


「……」


 少し探って、探してたそれを指先で(つま)んで抜き出す。

 それは真っ黒な、人型(ひとがた)の繊維質な紙だった。

 彼は(たもと)より、同じ形状の繊維質な紙を取り出す。


 真っ白なそれを、魔女の枕の下へ差し込んだ。

 途端に、真っ白だったそれに、じわり、と黒い染みが拡がった。


 悪魔は知っている。

 称賛のそれよりも、凄まじい量の怨嗟の声が潜んでいる事を。


 彼は枕の下に差し入れたそれは、彼女に向けられた怨嗟を代わりに受ける、人形(ひとがた)だ。


 真っ黒になった人形を、袂に入れる。そして、部屋を出た。


×


『   』


 突然、誰かに話しかけられた気がした。


 咄嗟に子を胸元に隠す様に抱き抱え、周囲を見回すも、よくはわからなかった。子が苦しそうにぐずったので、手を緩める。


 その夜、夢の中に魔女の『おばあちゃん』が現れた。


 久々に夢を見た。

 いつ振りかと言われると、


「(確か、)」


 そう。第一子が産まれる頃の、彼女の『おばあちゃん』から呼び出しを食らった時だった。……つまり。


『聡い子は嫌いじゃないですよ』


「……」


 ふと、視線を上げる。予想通り、目の前に白い髪と銀の目の女性が立っていた。


『あなた達の子、預かってあげますから、気晴らしで旅行とか、行ってみたらどうですか?』


「……何処に、行けと」


 どの土地に行っても、『魔女』と揶揄される彼女が良い目で見られるわけがない。その上、彼自身は『悪魔』と呼ばれ、恐らく、魔術師や貴族だけで無く、市井の者にも忌み嫌われる存在になってしまった。だから、落ち着いて旅行ができるとは到底思えなかった。


『んー……鳥のところとか、どうですか?』


「……通鳥、ですか」


聞き返すと、そうだと女性は穏やかに頷いた。

 後輩の魔術師に頼め、ということか。


『そうです。あなた達には強い繋がり(コネクション)があるじゃないですか』


「……そうですね」


 そう、視線を逸らしたところで、ふと目が覚めた。


「……御告げ、ですか」


 ゆっくり起き上がり、彼は頭を抱える。

 相変わらず、魔女は胎児の様に(うずくま)って、小さく震えていた。そっと触れると、びくりと跳ねる。

 彼女をそっと撫でながら、開いている方の手を自身の目元を覆うように持っていく。


 まさか、この様な形で干渉してくるとは思いもしなかった。呆れの様な、溜息が出る。


 後輩に声をかけたところ、「あの子のためならやってあげますよ」と、意外と乗り気だった。


「うちの縄張り(シマ)であの子を不快になんてさせません。任せてもらえませんか。旦那も手伝ってくれるはずなんで、安心してください」


 旦那……古き貴族『通鳥』の領主の伴侶、となると確か元王族の者だったか。軍部では人事に関わる職についていたはずだ。

 そして、魔女の軍部での、友人や同期に近い存在だと聞く。


「(……まあ、彼女の為()らば)」


 そうして、通鳥への慰安旅行の計画が立てられた。


 そして、美しくで穏やかな自然の景色を見て回るような、()()()()()()()()旅行が始まる。


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