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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
魔女と悪魔の結婚生活

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219/600

戦争が終結するお話。


 今まで魔術師の男は、駐屯地や塹壕(ざんごう)に身を潜める兵を様々な術式で支援していた。


 塹壕はなるべく清潔になるよう浄化の魔術式で衛生面を整えて、雨が降れば雨水を除去して必要な時には飲料水になるよう浄化する。

 怪我をした者の傷口を魔術で浄化し、薬術の魔女に持たされた回復薬を使って安静にさせれば三日ほどで回復した。

 食糧の調達も、空間魔術を利用すれば、容易だ。


 魔術師の男は魔力の回復が魔獣並みに早く、保有量も多い。だから、最戦線に配置されたらしい。

 他の宮廷魔術師も兵士らの支援や攻撃、防御を行なっているが交代制をとっている。後輩の魔術師は通鳥の当主なので、安全のためにこの場には居らず通鳥の土地で戦況に注視しているという。


 しかし、どうも戦況がよろしくない。


 無論、軍はきちんと機能していた。中立国であったためにしばらくは防戦一方だったが、住民の避難を優先させていたし、食糧は十分にある。

 有事用の武器はそれなりにあり、薬猿と通鳥、交魚から製作・輸入を行えばほぼ無尽蔵だ。


 どう考えても負けるはずのない戦で、押されている。


 それに軍部には、魔術師達で構成された魔術兵の部隊と、魔力を纏わせた武器を使う魔装兵、術式を込めた弾を使う魔砲兵がいる。

 国によって文明の進みや方向性、魔術師の数に偏りがあった。通常、文明が進み魔術師の多い方が有利となる。


 だが、相手国には魔術が通じにくかった。


 魔術は魔力と、魔術をどう使うかの思考力、想像力、がものをいう。

 つまり『魔力を具体的にどう使うか思考でき他方の介入に動じない者』、要は想像力豊かで頑固な人ほど他方の魔術の影響を受けない。


 相手国の兵達は皆、強い思想に取り憑かれていた。魔術への対抗かは定かではないが。

 正確にいうと、まるで他の思想は許さないとばかりに()()()()()()()()()()()()()、捕らえても話は通なかった。


『穢れた神を信仰する国など、要らないのです』

『我が国の神を信じなさい』

『あなたは救われます』


 ただひたすらに、兵はその言葉を零す。


 魂を弄られた存在など治療ができず、元の人間には戻せない。

 捕らえた彼らが元がどんな人間だったかなど分からないので、仮に魂を元の形に戻せてもすっかり元通りとはならないのだ。

 むしろ、『人間』に戻して送り返した時、『こんな人じゃなかった』とその人間の知り合いに言われでもすれば、逆に『兵士を改造した』と悪評を受ける恐れもあった。だから、どうにもできない。


 肉体も頑丈に作り直されているようなので、物理で色々を行っても中々に倒れなかった。


 『厄介なものを寄越してくれた』


 それが、彼らと対峙した軍人と魔術師達の感想だ。


 だから、『薬術の魔女の力を借りよう』とどこかの貴族が声を上げた。


 “『魔女』と呼ばれる者は、脅威となりうる能力を有している”それは、この世界での周知の事実だ。


 薬術の魔女に頼るわけにはいかないと()()()()()()()、大半の者はそれを是としなかった。『薬術の魔女』と呼ばれる人物は成人したばかりでまだ若かったし、世界にどのような影響を与えるかなど、不明瞭だからだ。


×


 その話を思い出し、魔術師の男は小さく息を吐いた。


「……其れで。貴様等は侵攻を止めぬと言うのですね」


視線を下ろせば、捕らえた数名の敵兵がいる。既に上司は姿を消しているので、この場には魔術師の男と、敵国の兵士しかいない。

 ひっくり返した地面から保護(捕縛)した後、軍部の者に少々治療を施してもらった。

 だが


『穢れた神を信仰する国など、要らないのです』

『我が国の神を信じなさい』

『あなたは救われます』


と、同じ台詞しか吐かない。


「如何せん、詰まらぬ」


魔術師の男は呟く。


 何か、情報でも吐いてくれたらと思い捕縛したのに、何の成果も得られなかった。


 魔術師の男は少々焦っている。

 理由は当然、『時間が無いから』だ。


 早く、この戦争を終わらせねば、薬術の魔女が兵器を作ってしまう。

 とにかく敵兵を減らして、戦線を国境の付近にまで戻さねばならない。

 そうして、敵国が侵攻を諦めたら。


 そう願えど、既に侵攻が始まって2ヶ月以上過ぎ、祈羊の土地は1/3近くが焦土になった。

 それに、駐屯地に呼ばれてから、敵国の軍勢と戦況、戦線や作戦の情報しか得られていない。


 酷く、(いや)な予感がした。


×


 やけに空が高く、青く感じた。

 これからもっと日の照りが増して、じきに盛夏が来る。

 青々と茂っているであろう庭の薬草達を、薬術の魔女と共に回収せねばなるまい。それと、庭の香花の木も実を結ぶ頃合いだ。酒や砂糖、塩に漬けて色々を作る予定が有った筈なのだ。


 そう、季節に想いを馳せたところで


——ドォン


と、やけに大きな砲弾の音が聞こえた。



 直後、通信が入る。


〈今の魔砲弾は、味方へ保護の魔術式をかける魔弾である。〉


頭上で弾け、何か、強い術式がかけられた事を自覚する。次いで、再び砲弾の放たれる音がした。


〈次期の砲弾は『薬術の魔女』の制作した、特殊な魔弾である——〉


 通信を聞き、耳を疑った。『薬術の魔女が作った魔弾(兵器)』だと。


〈——だが、保護がかけられていても安全の保証が難しい。ゆえに——〉


 数多の兵を敵味方を殆ど関係無くこの手で殺し、国境の位置をかなり戻した。


〈——物陰に、身を隠せ。〉


 今まで、薬術の魔女に兵器を作らせない為に、ここまでしたというのに。



 直後、異常に眩ゆい光が、頭上で弾ける。



 驚愕と怒りから目を見開き、魔術師の男は空を仰ぎ見た。


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