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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
一年目

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魔手


「……」


 彼女がアカデミーの寮内へ入ったことを確認し、魔術師の男は一度その場から離れた。

 そして、人気(ひとけ)のない路地で、魔術師の男は自身の身体に魔術をかけ直し、身体を人から獣のものへと変化させる。

 真っ直ぐに伸ばした背を曲げ、地面に手を突いた。


「……ぐ、」


骨格が変化する違和感に思わず声が漏れる。彼の長い頭髪はそのまま毛並みと成り、身体全てを(おお)った。

 深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。今回は(あらかじ)め半端に変身し続けていたためか比較的身体を変えるのは容易だった。

 脱げた衣服類を空間魔術で収納し、移動する。

 魔術師の男は特殊な体質をしており、魔猫姿の方が、魔術行使の効率が良かったのだ。


×


 再び、魔術師の男は魔術アカデミーの学生寮裏口へと戻る。消灯時間前だからかほとんどの部屋は内部から灯りが漏れていた。

 彼は寮の部屋達を見上げ、空気のにおいを嗅ぐ。先程まで様々な香辛料や人混みの(にお)いでまともに機能するか少し気掛かりだったが、杞憂(きゆう)だったようで求めていた(にお)いをすぐに見つけた。

 その匂いを辿(たど)りそれの濃い場所、つまりは匂いの根源となる場所に降り立つ。と、青々と茂る薬草たちが出迎えた。

 やはり、彼女は多くの薬草を育てていたようだ。


「(……確か、薬学特待生とやらだった筈)」


 だから、このように大量に薬草を育てていても問題は無いと。

 しかし、量が多い。予想していたよりも多い。床のほとんどが鉢植えに覆われ、下手に降りれば鉢植えを倒してしまう。なので、そのまま手すりの上で待機をすることにした。

 途中、カーテンが少し開き窓の奥から就寝前らしい薬術の魔女が顔を出した。姿を見られたことにやや焦ったものの、そのまま気にせず待機の姿勢をとった。

 やがて彼女は顔を引っ込め、その後灯りが消えたので恐らく、就寝したのだろう。


×


 日付の変わる頃になれば、魔術アカデミーの寮は消灯時間になっているようで灯りの漏れる部屋はなくなっていた。

 街の方も恐らく、片付けを後回しにしてでも住民達の帰宅が(うなが)され、軍人や魔術師以外は室内に居る筈だ。薄ら聴こえていた街の喧騒は聞こえない。

 アカデミー寮の周辺にも数名、軍人と魔術師の気配を感じ、視線を落とすと二人程の軍人が魔道具を携え待機しているのが確認出来た。

 裏門に二名、正面側に五名、側面に二名ずつと言ったところか。

 この場所だけでなく、様々な住居街や商店街の区域にもかなりの軍人や魔術師が待機しているだろう。

 こうして、夜中に軍人と魔術師の大半を投じて警戒するので、この虚霊祭は必要以上に昼間も警戒する羽目になる国主催の催事にするべきではない、と大半の魔術師や軍部の者は考えている。


 しばらく待機していると薄らと山の方から濃く暗い霧のような(もや)が降りるのが見える。


『……来たか』


 小さく呟く。

 これが虚霊祭の本当の魔の手、(いざな)いの魔獣達の襲来である。



 軍人、魔術師達は皆、精霊の(たぐ)いを()()()()観るための目の覆いと、鼻や口元を隠す覆いを身に付け、魔獣の襲来に備える。

 誘いの魔獣達は成人の儀を終えていない者達、つまり0歳児から18歳までの未成年達を襲う。

 稀に成人を襲うことも有るが、事例は滅多になく、その場合の主な被害者は成人の儀を行なっていない者だ。

 つまりは未成年しか居ない魔術アカデミーの学生達も被害者になり得る訳だが……。


「(……去年の記録()りも、多いですね……)」


 近年、魔獣が徐々に強くなり、個体数が事前の資料よりも多かった。その原因は未だ不明だが、()()が現れたこと、とある祠が破壊されていたことも無関係では無いのだろう。

 そして、数日前に薬術の魔女の元に現れた『(かどわ)かしの精霊』。

 あの精霊は、誘いの魔獣達の眷属だ。あの精霊に接触した薬術の魔女(彼女)が、最も、狙われる。


「(……嫌な予感とは、()れの事だったか)」


 一際濃い(もや)がこちらに近付いている。


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