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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
はじめてのおはなし

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はじめての1

完結した記念にはじめてネタ(意味深)を書いており、それの前置きというか直前までの10話分を追加いたしました。


完全版はまた後日。

そして年齢表現の制限が付きますので、別の場所にて……


やや年齢高めな雰囲気なので、お気をつけ下さいませ。


 薬術の魔女は近々結婚をする。少子高齢化を憂いた政府の考案した『相性結婚』の制度に(のっと)った形で、だ。

 相性結婚は先述の通り、少子高齢化の進んだ社会への解決策として立案された制度である。具体的な内容は家柄身分の関係なく、魔力の相性だけで結婚相手を決めるような内容だった。

 魔力の相性が良いと身体の相性も良いとされ、そうならば子を成しやすくなるだろう、と割と安直な理由で作られたものだ。

 一応、魔力の相性が良いと質の良い魔力を持った子供や丈夫な子供が生まれやすいとされており、そちらの目論みもあった。

 ほかにも、身分の高い家同士の強過ぎる結びつきや、繰り返される近親婚への抑止力も期待されていたのだ。


 そして、薬術の魔女は、その相性結婚で選ばれた男性と結婚する。


「えへへ」


 居間のソファに腰掛けながら結婚する日の事を考え、彼女は締まりのない顔でにやけていた。


如何(どう)したのです。其の様に笑われて」


奥の方から魔術師のローブを(まと)った背の高い男が現れ、側に寄ると感情の薄い声で問い掛ける。


 魔術師の男は、薬術の魔女の相性結婚の相手だ。

 彼は魔術や占術の得意な古き貴族、呪猫の家の者で、今は訳あって宮廷魔術師をしている。


「んー、もうすぐ約束の日が来るなぁって思って」


 魔術師の男を見上げ、薬術の魔女は嬉しそうに頬を染めて答えた。


「約束……然様(さよう)ですか」


少々、思考する様に視線を動かした後、思いあたる節に辿り着いたのか、極めて冷淡に彼は返す。

 彼は少々堅苦しく古風な喋り方をした。それは、彼の出身家が貴族であり、その上に古い仕来(しきた)りを大事にする家だからだ。薬術の魔女自身はもう既に聞き馴染んでいるので色々言う事は無い。


「楽しみ?」


 薬術の魔女が明るい声色で問い掛けると、魔術師の男はついと視線を横に逸らす。


(さて)


抑揚の少ない声は感情が読みにくく、顔も氷像の様に美しいが冷ややかだった。


「よかった。きみも楽しみなんだねー」


「……」


だが、薬術の魔女はにこにこと笑みを浮かべて笑う。それを魔術師の男は目を僅かに細めて見つめるだけだ。


 少し会話を交わした後、「夕餉(ゆうげ)を作りますので」と、彼は薬術の魔女の元から離れた。

 また一人になったので、彼女は婚姻の日について思考する。どんな準備が必要だとか、今するべき事はあったか、とか。


「あ、」


そして、その日は虚霊祭だったな、と思い至った。

 虚霊祭は、子供の魂を(さら)うとされる精霊が襲来する日だ。

 精霊に拐われないよう、子供達は悪霊の格好に(ふん)する。そのあと決まった手順に則って御守り付きの菓子を大人から受け取り、身を守るのだ。

 薬術の魔女にとっては成人して初めての虚霊祭なので、菓子を用意したいと思い立った。彼女が経営している薬と雑貨の店で、虚霊祭の菓子を配るのだ。

 そして、菓子を配る大人は仮装する決まりなので、仮装の用意もせねばならない。


 お菓子の配布の旨を知らせるには、まだ十分に余裕のある時期だ。なので、簡単に飾り付けた板にでもお知らせを書いて、精算機器(レジスター)の近くに置こうと考えた。


「どんなお菓子を作ろうかなー」


んー、と小さく声を漏らしながら計画を立てる。

 確か、お菓子に何か意味があったような、と思いつつも思い出せないので、夕食の時に魔術師の男に相談しようと決めた。


×


 用意されていた食事はいつも通りに豪華過ぎず、貧相過ぎず。要は一般的に食べられるようなものが並ぶ。

 料理を作った魔術師の男自身は古い貴族家の出身だが、あまり高級な食事を好まない様子だった。

 薬術の魔女自身は、高級な食事というものは見ているだけでなんだか窮屈に感じてしまう。なので、彼のそういうところ()ありがたく感じていた。

 ただ、彼は高級な食事を好まないけれど、舌が肥えているのか味には少々厳しい。


「ごはん作ってくれてありがとう。やっぱり美味しそうだね」


 にこにこと薬術の魔女が上機嫌で感謝を述べると、魔術師の男は僅かに気不味そうに顔をしかめる。


「……(わたくし)が手ずから作ったもの故、当然で御座いましょう」


「もう、褒めてるんだから素直に受け取ってよ。照れ屋さんなんだからー」


しかめていても顔が綺麗だなぁと薬術の魔女はなんとなく思うのだった。


「して。何か相談事ですか」


 なにも言っていなかったが彼女の様子で察したのか、そう彼は問う。……実は、魔術師の男は彼女の監視役も兼任しているので、彼女の服に仕込まれている盗聴の魔術式のお陰なのだが、薬術の魔女は知らない。


「ん。大人として参加するのが初めての虚霊祭だからさ、折角だし何かお菓子配りたいなぁって思ったの」


成程(なるほど)。菓子の用意について、ですか」


お店にお知らせ書くの、と告知用の飾り付けた板を見せると彼は頷いた。


「そう。どんなお菓子が良いのかなって」


「……そうですねぇ」


視線を動かし、は思考する。


「折角です。私も手伝いましょう」


「えっ本当!?」


「はい。護りの札も作らねばなりませんでしょう?」


「そうだね、ありがと」


虚霊祭の日に婚姻を結ぶので、その日の前後で休みを取っているのだそうだ。


×


 夕食を済ませると、さっと、魔術師の男はいくつか菓子の写真が載った冊子を出した。


「先ず、虚霊の祭での菓子の意味ですが……」


 そして、虚霊祭での込められている意味を一通り教えてくれた。


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